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「いや、前々から思ってはいたんだ。味方に妖がいれば、こんなに心強いことはないよ」 「見える社員なんてほとんど居ないだろ、そんなこと、」 「出来るよ…!」 マコは必死にヘアゴムを掲げた。 「アキ、僕出来るよ!トモにこれ貰った時、僕、人間とも仲良くなれるんだって嬉しかったんだ!字も覚えるよ!本当だよ!」 暁孝にしがみつかいて訴えるその瞳は、真剣そのものだ。遊び半分ではなく、未来に期待をして、それに、アカツキが居ないという事実を、マコは必死に乗り越えようとしている。そんな眼差しを前にして、駄目だとは言えなかった。 「…分かった。ただし、危険な目に遭わないようにするんだぞ。人間なんて大半は信用出来ないからな」 「…それ暁君の持論でしょ」 「持論で何が悪い。俺と共に住むというなら、俺のルールは守らせる」 「はは、なんかもう親バカだな、暁」 「笑ってるが、智の事もまだ許したわけじゃないからな、どんな仕事やらされるか分かったもんじゃない」 「あらら、随分な言い様だね、相談役殿」 「…相談役?」 始の言い方が気にかかり、怪訝な表情を向ける暁孝。「とりあえず、中でゆっくり話そうよ」と、始は笑顔を浮かべると暁孝の体を反転させ、その背中を押した。暁孝には、もう嫌な予感しかない。 ひとまずリビングに向うと、お茶を用意すると言う智哉に、マコとリンがついて歩く。 始はソファーに座るとニコニコと微笑みながら、ある証明書を取り出した。そこには、イズミ探偵事務所 妖科 相談役 清瀬暁孝、と顔写真があった。 暁孝は引ったくるように受け取ると、それをまじまじ見つめ、ギロリと始を睨む。 「どういう事だ、俺はこんなこと許可した覚えないぞ」 詰め寄る暁孝に、始は、まあまあ、と言いながら、智哉達に目を向ける。智哉と一緒になってコーヒーをカップに注いでいるマコとリン、微笑ましい光景だった。 「あの子達、心配でしょ?どこかに派遣される日が来たとしても、この証明書があれば、どこにでもついて行けるよ?」 「そんなの、あんたがあいつらの内定を取り消せば良かっただけだ」 「無理だよ、やる気のある人材を手放すようなバカはいないさ。知ってるだろ?うちの人材不足。猫の手も借りたいくらいなんだから」 じと、と見つめる暁孝に、始は肩を竦め苦笑った。 「相談役の件は、どうしても嫌ならその都度断ってくれていいからさ。ただ、たまに手伝ってくれたら嬉しいなーってだけ。この間みたいに、君をどこに連れて行こうってわけじゃない、今まで通り、本当に相談に乗ってくれるだけでも良いからさ」 そういう相談なら、何度も受けてきた。こんな妖を見なかったかとか、訪ねて来てないかとか、こんな場合暁孝ならどうする、義一ならどうしていたか、等。昔馴染みの妖に関する事もよく相談されていた。 「義一さんの抜けた穴は大きくてさ…。それに、もしかしたら、妖が勝手にこの家に来る回数も少なくさせる事も出来るかもしれないし」 「どういう事だ?」 「妖がこの家を直接訪ねて来たのは、ここに来ないと暁君に会えないからだ。でも、うちの探偵社と繋がりがあって、探偵社を通さないと依頼を受け付けないよってルールを作れば、少しは減ると思うんだよね」 暁孝は暫し始を睨み上げていたが、証明書に視線を向けると、覚悟を決めたのか、分かったと頷いた。 「これで、万事オーケーってこと?」 「ひとまず、だ。何かあったら、すぐに下ろしてやるからな」 「なんだよ、怖い顔するなよ暁ー」 「アキー」 怒ったように言う暁孝に、茶化すように言いながらトレイに載せてコーヒーを運んできた智哉と、智哉の真似をするマコ。 暁孝は、ぐ、と言葉を呑み込んだ。 「それで、俺達はここに世話になっても良いのか?」 楽しそうなマコに対し、リンは少し不安そうだ。珍しいと思いつつ、暁孝は口元を緩めた。 「初めからそのつもりだろ?」 暁孝の様子に、リンはどこか安心した様子で頭を下げた。 「お世話になります」 「いいよ、そういうのは。リンが居ると俺も心強い、よろしくな」 「あぁ、よろしく!」 ようやくリンらしい表情が戻り、暁孝も肩の力を抜いた。 智哉は早速、クローバーのヘアゴムとカラスマンのキーホルダーを目印に、家の説明に取りかかっている。その様子を眺めながら、始はこっそり暁孝に耳打ちした。 「…実は、イブキ様からの連絡が先なんだ。マコ君が塞ぎ込んでるって」 「え?」 「これ、本人に言わないで貰いたいんだけど、マコ君は大きな力を抱えているらしい。結局何かは教えて貰えてないんだけどさ、アカツキ様のペンダントがそれを抑えていたとか」 「なら、問題ないじゃないか」 今もマコの胸元には、アカツキの首飾りがある。 「うん、でも、そもそもあのペンダントにはアカツキ様の力がもう無いみたいなんだ。それをイブキ様が恐れててさ。あの騒動の時に使い果たしちゃったのかな」 「大丈夫なのか?」 「今のところはね。マコ君の気持ちが安定してるからだろうって。多分、暁君に会えたからじゃない?あの騒動の時だって、アカツキ様がもう帰らないって知っても、何も起きなかったんだから」 「…じゃあ、俺と居れば、何も問題はないのか?」 「そうであればいいけど…、気持ちの問題なら、いつそれが破られるか分からない。だから、イブキ様は危惧してるんだ。イブキ様自身も力が不安定で、もし今、マコ君の力が暴走したら止められるか分からないって」 「…どういう事だ?イブキ様が弱ってきてるのか?」 「かもしれない。結局、マコ君を引き取りに行った日は声も聞かせて貰えなかったから、恐らくね。だから、暁君といればマコ君は安心するなら、それも皆の為と思ったんだろうね」 そこで始は、溜め息を吐いた。 「…ごめん、また危ない目に巻き込んでるね」 そんな始に、暁孝は肩を竦めた。

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