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思えば、僕はずっと、滝口 さんの背中ばかり見ていた気がする。
「え、そんなのオレわかんないよ」
明るく戸惑うような声が耳に入って、ふっと集中力が途切れた。
僕は自分の指が止まったことに気付いて、あれ、と目線を上げる。何十分かぶりに、モニター以外の視界を求めた。がらんとしたオフィス。いくつか置かれているデスク。どれもまだ、その主を得てはいない……。
見える範囲には、僕一人だけだ。
やんわり遠くから響いてくる会話は、廊下を歩く二人分の足音といっしょに届いていた。
「わかんなくない、選ぶだけだよ。……あっちでサンプル広げるから、それ見て、良いなって思ったものを教えて?」
「というかふつー、そういうのって智史 が決めることじゃないの? オーナーじゃん」
よく晴れた平日の午後。
僕が座るデスクの正面には、大きな窓。ガラス越しに降りそそぐ十一月始めのからりと明るい陽差しは、窓のすぐ外に立つ木々の枝をぴかぴかに輝かせていた。
(三時……。そろそろ、戻らないと)
左手の腕時計を見下ろして、僕はひとつ、息を吐く。……とりあえず、今日の分の目処は立った、ということにしよう。
タスクリストに進行状況をメモして、作業中のウィンドウを閉じた。
今のところ、このオフィスでパソコンを使う人間は僕しかいない。そのままシャットダウンさせ、モニターの電源も落として、と、そろそろルーティンになりつつある帰り支度。
最後に、椅子の背に掛けていたスーツを取って、するっと腕を通す。
(照明……と空調も、こっちはもう止めてもいいかな)
さっきの会話はもう聞こえない。二人はおそらくスタジオにいるんだろう。僕は自分の鞄を持って席を離れ、出入り口近くのパネルスイッチと向き合う。
(お疲れさまです)
なんとなく室内を振り返り、心の中で小さく挨拶してから、オフィススペースを出た。
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