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「うふふ。ご馳走様。っていうか、そーんなに予防線を張らなくちゃ、ベタ惚れの恋人ですって言い出せないの? 逆にちょっと微笑ましい……、あら」
「こんばんは」
歩み出すと、先に目が合ったのは『みなぎ』さんの方。僕はそちらに向けて会釈する。
「うっかり立ち聞きをしてしまって、すみません」
「いいえー。誰かさんのせいで、ようやく、やっと、初めまして。ルキ君」
「美渚ほんと黙れ。……瑠姫君」
どうして、こんなとこに? そう問いたげな滝口さんを見上げて、僕は努めて平静な表情を保つ。
「お手洗いに、行ってました」
そんなふうに伝えながら、自分の来た方を指で差した。そうして、そこで限界。もう一度滝口さんを見上げる時には、僕の頬はどうしてもゆるりと緩んでしまう。だって、嬉しい。体の中であふれんばかりに鳴る速い鼓動が、好き、好き、って叫びたがる。
「瑠姫君? こら。なんで笑ってる?」
「……」
僕は唇を結んで、じっと滝口さんを見つめた。……いまはなんだか、いつもよりもちょっとだけ可愛い人に見える。背の高さも、優しく整った顔立ちも、僕のことを見つめる瞳の色だって、なんにも変わってない。なのに。
みなぎさんにやり込められて、ふてくされたみたいな声を出してた。
そういう「知らない」滝口さんを、これからもっと、もっと、見つけていきたいんだ。滝口さんは、もしかして「格好悪いところを見られた」って思ってるかもしれなくても。だって、好きだよ。
何度でも、どんな姿でも、僕はあなたを好きになる。飽くことなく、何百回でも、何千回でも、この胸に花が咲く。
「──紹介してください、滝口さん。……僕のことを、ちゃんと」
恋人なんだ、って。
目映い陽の光が降る、優しい世界。その隅っこで、僕が僕らしく笑ってる。
そんなふうに、毎日はとびきりの特別製になった。滝口さんが連れて来てくれた場所。僕はここで、彼に何を返せるかな……。その答えはまだ「わからない」。
だから、いまはただ、ほんとの気持ちだけを見せていたい。たとえば、そう。
僕はあなたに、恋を、しています。
『あなたに恋はしていません』 終
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