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「いつ、どこのお店で見掛けても、あの子を連れてる時だけは必ずでっかい看板を立ててたじゃない。あ、滝口君がいるのね、ってこっちが気付くと、ほとんど睨むみたいにして目で言うのよね。『いまは声を掛けるな』って。あたしだけかと思ったら、けっこうあちこちでおんなじ話を聞くから笑っちゃった。あの子との時間だけは絶っ対に邪魔されたくない、ってことでしょ。健気よねえ」
「……」
「やだ、だんまり? もしかして自覚なし? 寄らば斬るぞと言わんばかりのど迫力で睨まれたんですけどー?」
「美渚ほんと、いい性格してるよ。マジで旦那さん、気の毒にな」
「はあい?」
「…………そりゃ、必死にもなるだろ……。心臓を直に掴まれるみたいな惚れ方、したんだぞ。こっちは」
(滝口さん、も)
僕と二人でごはんする時間を、ほかの誰とも共有したくないって、想って、くれてたのかな。ずっと。
僕が、滝口さんをひとりじめしたかったのと、おんなじように。
(そうなんだ……)
胸の中に、あたたかな風が巻き起こって、ぶわりと花びらが舞う。大声を出したいような、泣いてしまいたいような、幸せな気持ち。
空いっぱいに、僕の──僕と彼の、恋の花が咲く。
(大好き)
もう僕は、俯くことも、逃げ出すことも、ない。
明るい陽の下で、大好きな人へ差し出すための花を育ててく。二人休むことの出来る木陰を、作ってゆく。その世界は二人きりでもいい。みんなといっしょでもいい。
だって、いつでもいちばん傍に、居るんだから。
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