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「……昨夜はちょっとクサクサしてたから、滝口君を掴まえて愚痴りたかっただけよ。で結局、あなたが相手してくれなかった時間で旦那と話したの。それで解決。見てのとおり、今日は晴れてお気に入りのカフェで夫婦デートなんだもん。我ながらほんっと、馬鹿みたいな喧嘩だった」
「そっか。なら、良かったよ」
「うん。心配してくれてありがと。滝口君てつくづく、頼もしい友達よね。だからつい、甘えちゃうんだけど」
「いつでもどうぞ。持ちつ持たれつだしな、美渚 とは」
(あ、れ)
お手洗いから戻る途中、自販機とおしゃれなカウチソファが置かれているレストスペースのところで、滝口さんの姿を見つける。背の高い、スレンダーな女の人が傍らに立ってた。
僕はびっくりして、つい、曲がり角のこちら側に舞い戻って隠れてしまう。
「そういえば、あの子はいいの? 例のルキ君でしょ」
(あ)
このままだと、立ち聞きになる。遅れて気付いて、僕は踵を返そうとした。と。
「一人で席に置いて来ちゃうなんて、どういう風の吹き回し? あーんなに同席好きの滝口君が唯一、同席絶対お断り! の看板を掲げた子でしょ」
「適当言ってろ。俺は、そんな看板を持った覚えはアリマセン」
「滝口君に覚えがなくても、こっちには見えてたんですー」
僕の位置から見える滝口さんは、観葉植物越しの背中だけ。その分、女の人の笑顔はよく見えた。からかう気満々の、いじわるな笑顔。
そのやり取りを見ているだけで、二人が相当に親しい友達なんだっていうのがわかる。滝口さんの話し方も、いつもよりぐっとラフだ。たとえば、同級生? とか、かな。もしかして、僕と大輔みたいな……。
(と、いうか)
ほんとに、これ、僕が聞いてちゃいけない。そう思うのに、もう足が動かない。とくんとくんと、鼓動が速くなってくる。
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