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待ち合わせたカフェに着くと、メッセージアプリで報せてもらってたとおり、滝口さんはさきに席を取って待ってくれていた。
その温もりがまだまだありがたい、掘りごたつの席。
僕は靴を脱いで畳へ上がりながら、鞄を置き、トレンチコートを脱ぐ。
「ごめんなさい……、だいぶ待ちましたか?」
「ぜんぜん大丈夫だよ。それより瑠姫君、お仕事お疲れさま」
「滝口さんも。お疲れさまです」
「うん。はい、どうぞ」
僕が腰を落ち着けるのを待って、滝口さんはメニューを差し出してくれた。創作料理のカフェ。新作のおすすめメニューは、もう春の食材が並んでる。菜の花、春キャベツ、お刺身のさわら。どれもふわっと萌える新芽や綻ぶ花のように明るい色をしていて、料理写真を見ているだけで気持ちがやわらかくなった。
「瑠姫君。来たところでわるいんだけど、ちょっとだけ席を空けてもいい?」
「え? はい」
「ごめんね」
ほとんど反射で頷いた僕に、滝口さんはそっと苦笑を向ける。そうして、こたつからその長い脚を抜いた。
「いま知り合いが入って来たのが見えたから、声だけ掛けて来るよ」
そう言い置くと、彼はお店の通路を奥へと歩いてく。春空みたいに爽やかな青いニットの背中が視界から消えるまで、僕はなんとなくずっと目で追ってしまってた。珍しいな。……仕事関係の人とか、かな。
少しだけそわそわする気持ちで、メニューを捲る。そうしてから、自分も席を立った。
(お手洗い、そういえば行きそびれたまんまだった……)
定時間際に滑り込んで来てしまった仕事を、とにかく出来るだけ早く片付けよう、一分でも早くお店に着こうって、そればかり考えていたから。スウィートホームクッキングでも寄らずに出て来たし、駅の構内も早足で抜けるだけだった。電車の中では、トイレのこともちゃんと覚えてたのに。
(だって)
(ちゃんと会えるの、先週ぶり……)
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