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第14話

 シェリダンの身支度を手伝うため、というよりはその独占欲ゆえに自らシェリダンの髪を結い飾りをつけさせるため、アルフレッドは真っすぐに寝室を挟んで隣にある王妃の私室へと入る。私室の前ではシェリダン付きの護衛であるリーン大将とナグム少将が待機しており、リュシアンに敬礼した。リュシアンもまた答礼する。  シェリダンの護衛として二人もセレニエ離宮に随行したため、リュシアンと同じようにこの二日間は休暇を取っていた。それゆえに交代の者から何か聞いていないかと、主たちがいないうちに情報を共有し整理していく。とはいえ、王であるアルフレッドとは違い、シェリダンは元から愛犬レイルの散歩と公務以外では滅多なことが無い限り私室からは出ない。そうアルフレッドと約束しているからだ。当然城の最奥に位置する私室で何があるわけもなく、平穏そのものだったようだ。 「エレーヌ女官長によりますと、本日の妃殿下のご予定は午前中に上奏状をご覧になり、午後は謁見に出られます。今日は数が多いようですので、おそらく長時間になるかと。そのためアンナ女官に妃殿下がお命じになられない限りは、レイルの散歩で中庭に出られるのは午前中になるかと思われます」  リーン大将が淀みなくスラスラと告げるシェリダンの予定をリュシアンは頭に叩き込んだ。 「謁見の数が多くなると隙も出てきやすくなります。よからぬことを考える輩がいないとも限りませんから、謁見の護衛にはリーン大将とナグム少将が謁見室の中で行ってください。休憩の兼ね合いが難しそうであれば妃殿下が私室におられる間に交代をして昼食等を摂るように」  大国の王妃であっても、否、大国の王妃だからこそ曲者に狙われることは多々ある。近衛や衛兵が守る城であっても、絶対に安全だとは言い切れないだろう。謁見と称して人の出入りが多くなるのならばなおさらだ。そんな中ではやはり、リュシアンが剣の腕も人柄も一番信頼している二人にシェリダンの側に付いていてもらいたい。そんなリュシアンの意図を当然理解している二人は、揃って敬礼をした。 「はッ! 了解いたしました!」  乱れなく敬礼する二人に頷いた時、私室の扉が開かれる。リュシアンらは素早く脇に避けて、姿を現したアルフレッドとシェリダンに礼をした。  アルフレッドが我が宝とばかりに腰を抱きその身を離そうとしない銀の髪に菫の瞳を持った心優しいシェリダンは、王の次に尊ばれる王妃という身でありながら毎朝こうして礼をするリュシアンたちに慣れず瞳を揺らしている。そんな姿を最初は弱弱しく思ったリュシアンであったが、彼が時折見せる為政者の顔に流石はジェラルドの見込んだ元宰相補佐であり、アルフレッドが愛情とは別に信頼する王妃だと思い直した日は今でも鮮明に記憶に残っている。  とはいえ、普段のシェリダンは優しく、少食ゆえに線が細く儚げだ。リュシアンも食事はさほど摂らず酒を飲むことを好むが、そんなリュシアンよりも更に食べないシェリダンの食事情はアルフレッドをはじめ、料理長やエレーヌ女官長たちの悩みの種だろうと、歩く二人の後ろで護衛しながらボンヤリと思う。それに毎朝のことだがアルフレッドに支えられているとはいえシェリダンの動きが少々ぎこちない。おそらく昨夜も存分に濃密な時間を過ごしたのだろう。今日はまだシェリダンは自分の足で歩けているが、立ち上がることすらできずにアルフレッドに抱き上げられていることも少なくはないのだ。

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