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第13話

 あれから懲りずにまた晩餐の誘いを送ってきたリオンに断りの返事を書いて、リュシアンは家族とリオンから逃げまくり休暇を終えた。いつものように薬を飲んで寝た身体はいつも通りに少し重怠く、しかし隊服を着てしまえばそれさえも忘れた。腰に剣を佩いて背筋を伸ばす。その凛とした姿は既に〝鬼の近衛隊長〟と恐れられるものだ。  誰よりも早く近衛の本営に着き、今日一日の予定を自ら確認する。隙などどこにも見当たらない上官の姿に次々と出仕してきた近衛たちからの尊敬と畏怖の眼差しが注がれるが、それさえもリュシアンは気に留めず淡々と将校たちに指示を出していった。  今日は特別な行事などは何もない。ならば予定通り護衛と見回りに徹するだけだ。リュシアンは机に積み上げられている剣や馬具などに関する請求書やその他の報告書を次の交代の時に片付けることにして、あらかじめ決められていた数名の部下と共に王の私室へと向かった。おそらくアルフレッドはまだシェリダンと共に寝台の中だろう。 「隊長、おはようございます」  夜番だった者たちがリュシアンの姿を見て敬礼した。リュシアンもまた彼らの前に立ち答礼する。 「変わりないですか」 「はい。ございません」  その報告に満足して、リュシアンは一つ頷く。 「ご苦労でした。これよりは我々が引き継ぎます。戻って休みなさい」 「はッ! 失礼いたします!」  再び敬礼をして、夜番の近衛たちが踵を返す。眠っていないはずだがその動きに陰りはなく、キビキビとしたその姿は流石訓練された近衛兵だと言えるだろう。  後ろに控えている近衛たちに配置につくよう伝えて、リュシアンは静かに耳を澄ませた。しばらくするとほんのわずかな音と人の動く気配を感じる。どうやらアルフレッドが王の私室へ入ったようだ。そして中でゾロゾロと動くいくつもの気配。これは侍従のものだろう。  ジッと神経を研ぎ澄ませる。侍従が動き回る気配が治まった。扉の横で姿勢を正す。その様子に少し離れた位置に待機する部下たちも姿勢を正した。同時にカチャリと扉が開く。 「陛下、おはようございます」  揃って礼をする。一部の乱れもないその光景に身支度を整えたアルフレッドは口端を上げながらひとつ頷いた。 「休暇明けだというのに相変わらずだなリュシアン」 「恐れ入ります」  アルフレッドとリュシアンは幼馴染であるが、そうである前に王と近衛隊長。つまり主従だ。その関係性をしっかりと守るような堅苦しい応えに、毎度のことながらアルフレッドは苦笑を禁じえなかった。

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