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第一章 星渡りの目薬

 まもなく定時のオフィスで鹿久保 伊予(かくぼ いよ)が見たのは、うつむき加減で目頭を押さえる大沢 英治(おおさわ えいじ)の姿だった。  伊予の上司、英治。  穏やか、とはかけ離れた、雑然としたオフィス。  書類の山に囲まれた英治の姿は、一見して彼の多忙さを物語っていた。 「お疲れですか、大沢さん」  伊予は、思わずそう声を掛けていた。  いつもならば、そっと缶コーヒーの差し入れをするのだが。 「おっと、見苦しいところを見せたな」  そう言う英治は、すでに背筋を伸ばしている。  ただの眼精疲労だ、と強がってみせる。  しかし、と伊予は後を追う。  この鈍感な不思議ちゃんでも、英治の事となるとやたら心配性になってしまうのだ。

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