32 / 32

第四章・9

 カウンター席に隣同士で座った伊予と英治は、メニューを手にした。 「どれが伊予のお勧めかな?」 「英治さん、コーヒーは酸味と苦味のどちらが好みですか?」  石丸は目を円くした。 (伊予、とか! 英治さん、とか!)  すっかりラブラブの二人は、メニューを眺めるだけでいちゃついている。 「やれやれ。あの目薬に、こんな副作用があるとは思っても見ませんでしたよ」 「まあ、いいじゃないか。お二人とも、幸せそうだ」  そうですね、と石丸もマスターと顔を見合せ微笑んだ。 『がらくた』に、新しい常連さんが仲間入りだ。 「マスター、トラジャを二つください」 「はい、かしこまりました」  肩を寄せ合う伊予と英治は、コーヒーの香りに包まれた。  幸せの香りいっぱいに、包まれた。

ともだちにシェアしよう!