2 / 144

第一章 最悪の初めて

 拳が空を切る。蹴りが唸りを上げる。  全てをかわす。まるで、舞うように。  私立城北高等学校、男子体育の総合格闘技の授業。  一ノ瀬 凱(いちのせ がい)と、由良 怜也(ゆら れんや)は、紅白に分かれた練習試合を行っていた。  クラスでも1,2を争う強者二人の試合だ。  周囲は歓声を上げ、試合の行方を見守っていた。 「一ノ瀬、惜しい! もう少しでヒットだったぞ!」 「由良、すげえ! かわすかよ、あれを!」  凱は舌打ちした。  怜也との手合せは苦手だ。  相性が悪い、とでも言おうか。  プレッシャーは与えているはずだ。  彼の肌は汗ばみ、息を切らせているのだから。  しかし、決定的な一撃が放てない。紙一重でかわされる。  焦れた凱は、奇襲をかけることにした。  ひときわ大きく鋭く、蹴りを放つ。  やはりよけてしまう、怜也。  だが、その着地の瞬間、両脚でそのまま態勢を整えていない体を挟み込み、全身で捻った。  いわゆる、蟹挟みという技だ。  下半身をとられた怜也は、そのまま地に倒れた。

ともだちにシェアしよう!