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第一章・2
凱は、すばやく仰向けの怜也に馬乗りになった。
後はこのキレイな顔に思いきり拳を……、拳を……。
上気した桜色の肌。
荒い呼吸。
乱れて頬に張り付いた髪に、熱を帯びて潤んだ眼。
思わず我を忘れて見蕩れてしまった凱の隙を、怜也は見逃さなかった。
両手を重ねて、下から激しい掌打を突き上げた。
「ぐあッ!」
そこまで、と声がかかった。
審判を勤めていた体育教師が、ストップをかける。
周囲から、どよめきがあがった。
「一ノ瀬、お見事。でも、最後の詰めが甘かったな」
そんな事、言われなくても解かってらぁ、と心の中で忌々しく凱は教師を罵った。
だが、あの状態で怜也を上から見下ろせば、誰でもああなってしまうに違いないのだ。
立ち上がり、握手を求めてくる怜也だ。
さすがだね、と罪のない言葉をかけながら、手を差し伸べてくる。
そっと握ると、柔らかく温かかった。
まるで男らしからぬ、その白い手。
汗の香りすら芳しい。
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