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+月ノ夜本編+【覚悟】
あのキスから、丸々2週間が経過。
1人、ベットから、月を見上げる。
綺麗……。
枕を、ぎゅーっと抱きしめて、顔を埋めた。
あー……もう、分かった。
もうこれ以上、無理。
気持ちに抵抗するのも、もう、疲れた。 降参。
――――……全く状況の変わらない思考に、ついに、オレは覚悟を決めた。
こんなにこんなに毎日毎日毎日、涼介の事しかない自分の、心の中。
――――……覚悟を決めるには、十分だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「――――……あのな、オレな、 マジで 変、なんだよ……」
「あん? 何言うてん?」
仲間達と夕食を取って、その夜遅くに2人で駅に降り立った。
周りに人気が無くなってからの、オレの突然の言葉に、涼介はおかしそうに笑う。
「……何で笑うんだよ」
「瑞希が変なのやなんていつもの事やん。 今更何や?」
「……すっげえ、むかつく」
睨み付けると、涼介はまたクスクス笑った。
「冗談やて。 ……どないした? 変やて思う、その根拠は?」
「……あんまりびっくりすんなよ」
「んー? オレがびっくりするよな事なんか?」
「……うん、多分」
「ふうん……ま、ええよ。何?」
少しの間をおいて、涼介はオレをまっすぐ見つめる。
「……あん時のさ、キス」
「へ?」
「……あん時お前がしたキス」
「……あぁ……それが?」
「――――……ずっと、忘れらんねえ」
「……!」
涼介の顔を見て、とんでもない事言ってるのかなあ、と思いながらも。
――――……でも本当の事で。1人で悶々してるこの状況から脱却したくて。
相当びっくりしたらしく、立ち止まってしまった涼介を、同じく立ち止まってまっすぐに見つめ返す。
「どーしよ……?」
思わず正直に気持ちのまま告げたその言葉に。
しばらく唖然としていた涼介は。
困ったような顔で苦笑いして見せる。
「どーしよて言われても……忘れられんで、気色悪いっちゅー事?」
「ちっげーから。……オレ、今、そんなような事、言ったっけ??」
「いや、言うてへんけど……じゃ何なん?」
「――――……うん。 続きは 家に寄ってくれたら話す」
「は? ……まあ寄るんは、ええんやけど……」
何なんやろなぁ、お前はほんまに……。
何だかブツブツ言ってる涼介とまた歩き始めて、一緒にマンションに帰った。部屋に入ると、暖房のスイッチを入れた。
「瑞希、コーヒー淹れる?」
「今いい。涼介、話が先」
くいくい、と手招きして、涼介をソファに促す。
「……はいはい」
そんな返事と共に、涼介はソファに腰かけ。その涼介の下に座り込んだオレを、首を傾げながら見下ろした。
「ほんま、何やの?」
「……あのさ」
「ん?」
こうして話していても、視線はどうしても唇にいってしまう。
どうしてもどうしても。
意識して、見てしまう。
離れている時は――――……涼介の姿を、探してしまう。
「――――……あの……」
オレは、きゅ、と一度唇を噛みしめた後。
膝の上の拳を握りしめたまま、まっすぐに涼介を見上げた。
「……あの時みたいなキス、しねえ?」
「――――……は……?」
ぽかん、と口をあけたまま固まる涼介。
「だから……キス。……あの時みたいにしてくんねえかな」
しばらく固まっていた涼介は、ふ、と苦笑いを浮かべた。
「無理や」
「……無理―――……なのか?」
「せや。無理や」
涼介ははっきりとそう言い切った。
「……したくないっていう意味か?」
無理と言い切られて少なからず傷つきながら。
少し俯きながら、聞いてみると。 涼介は苦笑いを浮かべた。
「……そうやなくて―――……あそこで止めるのが精一杯やってこと」
「……」
「あんなあ――――……好きな奴にあんなキスして、しかもお前まともに嫌がらんし。 よくあそこで止められたって 褒めて欲しい位なんやで ……」
「……だって嫌じゃなかったし……」
「――――……」
素直に答えるオレに、涼介は言葉を失いながらも。
自分の前髪をくしゃくしゃと掻き上げながら。
「――――……無理や。次したら、止めてやれる自信ないし」
「――――……」
黙ってしまったオレに、涼介はふぅ、と息をついた。
「……あんなぁ、瑞希」
「……ん?」
ふ、と涼介をまっすぐに見上げると。
涼介は苦笑いを浮かべていた。
「……オレがもう一度お前にああいう事したとして、何がどうなるんや?」
「え?」
「何のためにすんねや?」
「……何のため? ――――……いや、別に……」
「別に?」
不思議そうな顔をした涼介に、オレは、ただ素直に。
「ただ、したかっただけ」
そう言うと。
言葉に詰まった涼介が、次の瞬間には、 はぁぁぁ、と肩を落とした。
――――……でもだって。
お前の唇、見ちゃうんだもん。
大体お前がオレの事好きだなんて言うからこんなに意識して。
キスだって、あんなキスするから、もっともっと意識して。
はーー……。
どーしてくれんだよ、もー。
いっつもお前のこと探して。
いっつも、お前の唇や――――……なんか、指、とか。
……意識しちまうし。
……はーーー……。
オレも涼介に負けず劣らずの大きなため息を一度ついて。
それから、再び顔を上げた。
「オレ」
「……うん?」
「やっぱり、お前とキスしたい」
まっすぐ涼介を見つめていると。
涼介は、もう一度おっきなため息。
「……お前はオレに、忍耐力を鍛えろて迫っとんの?」
涼介の言葉に、オレはぷるぷるぷる、と首を横に振った。
「……途中で止めなくても、良い」
「――――……は?」
「……お前が気が済むとこまでしてくれて良い」
「――――……瑞希……」
何度ため息つくつもりなんだろう、と、涼介をドツいてやりたくなる。
しかも今度は、なかなか立ち直ってくれず、オレを見てもくれない。
「――――……お前なぁ、ほんまにめっちゃすごい事言うてんの、分かっとる?」
ぐったりしたまま、オレの顔を見ずに、俯いたまま言う涼介。
「……一応分かってる、つもりだけど……」
「――――……気が済むとこって、どこやと思うてんの?」
「え、どこ?……うーん……」
「……気の済む最後までいったら、何するか分かっとるん?」
涼介の質問にしばらく考えた後。
「……何するんだ??」
まっすぐに聞いたオレに、涼介は遂に、ソファの背もたれに凭れて、天井を見上げてしまった。
滅多にこんな角度では見ない涼介の喉仏を、しかめっ面で見ていたけれど。
「なあなあ?」
オレは、涼介の膝を掴んでユサユサ揺らした。
「――――……オレ、お前に、抱かれるの?」
「は?」
オレの視線の先で、涼介がびっくりしたような顔を見せたと思ったら。
「……もうお前、嫌や」
今までで一番深いため息と共にそう言われて。
涼介はすっかりそっぽを向いて座り直してしまった。
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