完全にオレから顔を背けて。 　全然こっちを見てくれない。 「なー、涼介ー……」 「……ちょっと、黙っといて」 　ぽそ、と一声。 　そしてまた、ため息。 「……だって、最後ってそうじゃねえの？　違うの？」 「――――……はー……」 　もう今度は返事もなくの、ため息。 　だって、そうじゃないのかよー。 　もう、なんなんだよー。 　 「―――……つーかさ、瑞希」 「……うん？」 　ちら、と顔だけで、振り返られる。 　体は、向こうを向いたまんま。 「……お前、オレに抱かれても、ええの？」 「え」 　ぼっ。 　一瞬で、顔から火が出た。 「……はーー……」 　またしても、涼介に顔を逸らされる。 「……お前さ、こんなこと聞いて、どーすんの？」 「……どーするって？」 「オレが、お前の事、抱きたいて言うたら、そうしてええの？」 「――――……まだ覚悟は……まだだけど……」 「まだ、って……」 　その言葉に、引っかかったみたいで、涼介は、オレをまた顔だけで振り返った。 「……だって一応――――……はっきりさせとかないと……」 「……させとかないと？　なんやねん？」 　疲れたような涼介の物言いに少し、ムッとしつつ。 　 「もー。ちゃんと、こっち向けよ」 　ぐい、と、オレが涼介の腕を掴んで、引っ張る。 「……だってさ、お前と付き合うってちゃんと決める前に、やっぱりそこ、はっきりさせとかないと」 　嫌そうに腕を離そうとしていた涼介は、その言葉に、ぴた、と動きを止めた。 「――――……は？」 「……は？って、何、その顔……嫌なの？」 　不満げなオレに、涼介は更に困ったような顔を見せる。 「嫌なのって……　ていうか……お前今……」 　そこまでで言葉に詰まってしまった涼介。やっと体ごとこっちを向いてくれたので、オレは勢いづいて話し始めた。 「あのな、オレ、考えたんだよ」 「……」 「お前が好きって言ってから、お前の事しか頭にない訳。……キスしてからは、もっと、すっげえ意識しちゃって、オレの世界が全部お前の事ばっかりな訳。　分かる？」 「……あ、……あぁ……？」 　ちょっぴり小首を傾げながらではあるけれど、涼介がとりあえず頷いたので、続ける。 「で、オレはお前の事、とにかく好きな訳。ただ、恋愛かって言われると実はまだ分かんねえけど、でも、絶対お前と離れたくない訳で……だから、告白断ってお前と離れるなんて事には、死んでもなりたくない」 「……瑞希……？……」 「んで、もっと考えると、お前が誰か他の奴とあんな風にキスするのは嫌で……オレはお前と、あんなキスしても良いって思ってるし――――……あん時全然嫌じゃなかったし。あの感じのままキスしたり、その先？も行けるなら、お前とそういう意味で付き合えるっていう結論に至ったの。　分かる？」 「――――……意味は、分かるんやけど……」 「けど？」 「――――……そんな簡単に……良いんか、ＯＫして」 「……はあ？……全っっ然、簡単じゃねえよ？」 　呆れたように、いいか？と念を押しながら、オレは続ける。 「あれから、寝ても覚めても、ずっとずっとずっと、マジで、ずーっと、お前の事しか考えてねえもん。全然簡単じゃなかったぜ？　もー、ほんと……　　昨日なんか、夢にまで出てきて……」 「……うなされたんか……？」 　オレの口調に、引きつりながらそう聞いてくる涼介。 「いや？――――……キスされた。めいっぱい」 「――――……」 　けろっと答えたオレに、また涼介は黙ってしまった。 「……んで。それも全然嫌じゃねーし。……　もう、オレ、自分の気持ち、認めようかなって、思って……」 「認める？」 　うん、と頷いて。一瞬言葉を選んだオレは、涼介をまっすぐに見つめた。 「―――……オレ、お前失いたくない。でもって、キスとかも全然嫌じゃない。……つーか、むしろ、したいな、て思う位、だし……」 「――――……」 「だから。――――……お前と、付き合う」 　まっすぐ、涼介を見上げて、オレははっきりと、そう告げた。 「友達じゃなくて。　恋人として付き合う」 　涼介からの反論とか疑問とか、そんな余地がないように、視線を逸らさずに、言い切った瞬間。 　涼介の手に腕を捕られて引きずり寄せられて、抱き締められた。 「涼介……」 「――――……最後や」 「え？」 「……これが聞くの最後や」 「……うん？」 　涼介の声が、耳じゃなくて、体を伝わって聞こえてきてる気がする位。きつく抱き締められてて。 　戸惑いながら、返事すると。 「……離すつもりないで、ずっと。それでも、お前ＯＫするんか？」 「うん。いーぜ？　……つか、絶対ぇ離すなよ」 「……意味、ほんまに分かってるんか。オレと付き合うなら、女の子と付き合ったり、させへんよ？」 「……オレ、恋人って言ってるじゃん。男も女も、お前じゃない奴と付き合ったりしないよ」 「ほんまに、分かってるんかな……」 「ん。多分　……　大まかには分かってる、と思う……」 「……何やそれ」 　涼介が少し顔を離して、オレを見つめる。 　視線を合わせて、オレは、ふ、と微笑んだ。 「嘘だよ。分かってる、ちゃんと。ずっと涼介と一緒に居るつもりで、今、言ってる」 　クスクス笑ったオレに、涼介も、やっと、少し笑んで。 　オレの頬に、そっと手を掛けた。 「――――……瑞希、好きや」 「……うん」 　言ってくれた言葉を、受け止めて思うのは。 　――――……やっぱ、すごく、嬉しいって事で。 「……ありがとなぁ、瑞希」 「――――……うん」 　こんな風に、笑ってくれるなら。　 　――――……ずっと、側に居たいと、思う。 　やっぱり嬉しくて。 　――――……オレは、そっと唇を寄せて、涼介の唇にキスした。 　柔らかく触れた唇を離した途端。 　今度は、頬に触れていた涼介の手に上向かされて。 　――――……覆い被さるみたいに、唇が深く重なってきた。 「……ン……！」 　――――……うわ。 　なんか、やっぱり――――……　強烈、すぎ。 　……息。　どこですればいーんだ……。 「っ……ン……」 　ぼーっとする頭。　辛うじてうっすらと瞳を開けると。 　涼介のドアップが目の前にあった。 　伏せられた睫毛に、どき、として、また瞳を伏せる。 　いつの間にか向きが逆転して、背中はソファに沈んだ。開いた脚の間に、涼介が体を割り込ませてくる。 　なんだかより密着した形で、キスされる。 　――――……頭が、朦朧と、してくる。 「……ふ、は……　　ん――――……ン……！」 　息がうまく出来ないのと。 　――――……刺激が強すぎるそのキスは、少し苦しくて。 　少し唇を離して、息を吸おうと口を開けた隙に、舌が更に深く侵入してきた。 「……ん、ン――――……ふ……っ……」 　なんか、溶けてしまいそう、なんて、初めて感じた。 　キス。 　……うますぎると。　思うんだけど。　 　お前。一体どこで練習しやがった……。 　文句を言いたいのは山々だったけれど、何にせよぼーっとしていて、浮かんだ文句がその場で頭から消されてしまう。 　どれだけキスされてたのか。 　少しだけ離れた唇の間で、涼介が、言った。 「……ここまでで――――……やめよか……？」 　あまりにぼうっとしていて、涼介が囁いた言葉も一瞬理解できなかった。 「……え……？」 　はぁ、と熱い息を吐きながら、涼介を見上げると。 　涼介は一瞬辛そうな顔を、見せた。 「――――……っやっぱ止まらんわ。……ごめん、瑞希。……もうちょい、続き　したい。ええ？」 「え……　あ……つづき……？」 　ちょっとの続きって何の事だろうと思って。 　結局、さっきの、オレがお前に抱かれるの？っていう質問。答えてくれてないなー……なんて事が浮かんだりもして。 　続きって、そうなるのかなーと思いながら。 　それでも、涼介が何をしたいと言ってるんだとしても、嫌じゃないと思ったので。 　うん、と頷いて、涼介の首に手を掛けた。