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第1話
最初のきっかけはこれだ。
朝起きると、岳じゃない男が隣で眠ってた。
昨日、初めて行ったBARで声をかけられて意気投合した。それはなんとなく覚えてる。
結構飲んだしな・・・起き上がろうとして着いた手を取られて引き戻される。
「おはよう、悠人君。昨日は激しくて・・・気持ち良かったぁ」
「そりゃどうも」
「俺たち相性良いよねぇ。また会ってくれる?」
綺麗な金髪に似合わない黒目の大きな瞳。可愛い顔してる。でも、岳じゃない。
「悪いけど、帰ってくれる?」
「え?」
「もうすぐ付き合ってるやつが来るから」
「・・・付き合ってる人いるの?いないって言ったじゃん。だからついてきたのに・・・」
大きな目に涙が溜まってく。
「ごめん、俺酔ってて・・・君の名前も覚えてない」
「嘘・・・エッチの最中呼んでくれてたじゃん・・・」
信じられないと瞬きから涙がポロポロ落ちていく。
「悪いけど、2度目はないから」
キッと睨んで噛んだ唇は震えていた。
「最低」
「ごめん」
ベッド脇に落ちた服を拾ってやる。
「悪いけど、マジ帰って」
6:10
始発は動いてる。岳は7:30には来るんだ。
泣きながら昨日の服を着る。鼻を啜りながら細身のジーンズを履く。
スタイル良いな・・・呑気な俺はその時のそいつの気持ちなんて考えてもいなかった。
もちろん岳の気持ちも。男同志でどうこうするって・・・面倒くさい。
最低だな、俺。
名前も忘れた奴は何も言わず、出て行く一瞬だけ俺を睨んで泣きながら帰って行った。
面倒くせーやつ。男同士で約束とか・・・ありえねぇ。
そんなのは岳だけでいい。岳は特別。
風呂に入ろうと立ち上がって振り返る。乱れたベッドに悪寒が走る。
ガバッとシーツを剥がし洗濯機に突っ込んだ。
寝室の窓を開け、リビングの戸も開ける。換気という名の洗浄。消臭スプレーを寝室にこれでもかって位、振る。
気持ちわりー・・・
岳以外入れたことのない寝室に勝手に入りやがって・・・
自分勝手な言い草も、俺しか聞いてないからいい。
俺のテリトリーには岳しか入れない。
ガチャガチャ・・・
あ・・・岳。
「おはよう。あれ、もう起きてる」
・・・今日もいい男だな。いつものように。毎日。
「シャワー浴びたから。まだ、時間あるだろ?コーヒー飲む?」
「うん、もらう」
その声は俺の横に座って、俺はキッチンへと向かう。
「女、来てたの?」
「え?」
「オスの匂いがする」
オス?
「ヤキモチ?」
傷付いた顔もそそる。
「俺は岳だけだから」
「他のヤツ、抱くくせに」
「性欲処理だから。感情なんてない」
隣に座って肩を抱き寄せる。
「おれは悠人だけだけど」
「不満?」
「俺で、性欲処理すればいいだろ!」
「それは無理だな」
「岳」
「悠人・・・ってなんで朝からこんな話・・・」
俯く顎を持ち上げて・・・唇を合わす。
「キスは岳としかしてない」
「・・俺だって・・・悠人を満足させたい」
「俺は岳がこうやっていてくれるだけで満足してる。そろそろ行こうか」
この話はここで終わり。
「悠人・・・」
俺は岳を抱けない。でも一生、一緒にいる。
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