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その指が頬を伝い、二本の指で摘んでクイーっと引っ張った。 「ここで、俺以外の人と抱き合ってた。俺と悠人の場所で女の子を抱きしめてた」 駆け抜けるように記憶がその場所に戻ってオーバーラップさせる。岳の事で逃げたくなって告ってきた女と付き合った。女がここに連れてきて、されるがまま抱きつかれ岳以外の奴を抱きしめた。 何もかも岳とは違うことに戸惑ったことは覚えてる。 「あの日から悠人を信用出来なくなった。俺の中でいつも不安が無くならなくて、誰かに何かをいわれるたびに不安で押しつぶされそうになる。こうやって目の前にいるのに、数秒後にはどこかに行ってしまいそうで怖いんだ。怖くて怖くて仕方がない。俺だけしか見えなくなればいいのに。悠人を誰も好きにならなければいいのに。どこかに閉じ込めて俺だけのモノにしたい」 ゆらゆらと揺れる綺麗な瞳からポロりと涙が溢れた。後を続くようにポロポロと溢れていく。頬を摘んだ手が頬に添えられてそれが震えているのがわかる。 俺が逃げたことで岳の心に大きな傷を作ってしまったのか。大きな大きな傷を不安がえぐる。それを1人でずっと抱えて俺のそばにいたのか。 自分の事でいっぱいいっぱいで岳の気持ちなんて考えてなかった。俺が遊んでも、何をしてきても受け入れてくれることに安堵して岳の気持ちなんて深く考えたことなんてなかった。 今更何をどう繕って伝えても岳の不安はずぐには消えていかない。傷を治してやるのは不安を消し去る方法しかないんだと思う。 どう伝えればいい?この先岳を安心させてやるにはどうしたらいんだろう。 襲ってくる不安に回した手に再び力を込める。引き寄せて首筋に顔を埋めて岳の匂いを思いっきり吸い込んだ。 こうやっていつでも抱きしめて、俺の愛情を全部伝えていかなければいけない。 幸せだと安心して俺のそばにいてくれる日まで。それは俺が償う誠意なんじゃないのか。 「生まれてから今までずっと一緒にいて俺の全部が悠人で出来てる。だけどこれから社会に出て色んな人に出会って長い時間をかけて悠人を忘れて生きていくこともこの不安から抜け出せる手段だと思った」 俺を忘れていく?なんだそれ。この先俺といない将来を考えたっていうのか?そんなこと許さないから。 「それで?結論は出たの?」 苛立つ気持ちを抑えて最後まで聞く。ちゃんと岳の気持ちを最後まで聞きたい。

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