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崩壊──06.*

 1年と数か月間いたぶり尽くされた結末は、スラム街の端にあるごみ捨て場だった。  正確には戻ってきたというべきだろうか、屋敷に連れていかれる前はそことは別の路上で生活していたのだから。  4人が、そろそろ飽きたから新しい玩具を飼おうと決めた。だからトイは捨てられた。  ただ、新しい玩具を飼う前にどうせ捨てるのだから最後に飽いたトイで思い切り遊ぼうとありとあらゆることされて、壊された。  彼らはトイの命が尽きても別に構わなかったのだろう、トイの身体をめちゃくちゃにした。  息も絶え絶えなトイの惨状に少しは哀れまれたのか、全裸のトイは屋敷の執事に毛布で包まれ汚らしい街の路地裏に打ち捨てられた。  雨の日だった。汚物塗れで、傷つけられた体は出血していて、病院を探す気力も体力もない。金もない、学もない、世界を知らない、体を弄ばれることしか知らない、そして唐突に知らない路上に捨てられた子どもが生きていけるわけがなかった。  それに毛布も雨でぐしゃぐしゃに濡れて、どんどん体温も無くなっていって。孤児の子どもが路上で死ぬことなどありふれた日常だ。  生ゴミの饐えた臭いの中で、確かにトイはあのまま死ぬはずだった。  通りかかったシスターに、助けて貰わなければ。 「うるせえ」 「あ、あっ、や、ああアっ……」 「たかが共有物が、ガタガタ言ってんじゃねえ。飽きてねえからヤってんだろーが」 「ん、んん、んく、ふ」  散々擦られた入口は熱を持ったように熱い。極限まで広がった膣の入り口が削り取られていくような気さえする。  もしかしたら切れているのかもしれないが、あまりにも激しい律動にぐるぐる動く視界のせいで確認のしようがなかった。  濡れた音色が増すたびに圧迫感もます。  どんどんと膨張していく男の熱を引き攣れる内部いっぱいに感じた。最後はきっとこのまま弾けるのだろうかとこれまで通りの現実に思い当って、トイの意識は僅かに浮上した。 「ぁ、あ、なか……なか、出さない、で」  震える手で、腰をひっつかんで揺さぶっているソンリェンの手のひらを弱弱しく掴む。 「あ?」  一気に機嫌が急降下したソンリェンに怯えるが、それだけはどうしても嫌だった。  セックスというものがなんたるかは、あの屋敷で4人の男たちに身体で教え込まれたがそれ以上のことは深く理解していなかった。  けれども育児院で生活していく上で女性の身体のこともシスターから教えて貰った。生理というものがまだ来ていなくとも、はいらん、というのが起こっていれば赤ん坊ができる危険性があるのだと。  トイは相変わらず男とも女ともつかない身体だが、声変わりはしていて棒のような身体にも女性らしい柔らかさはない。  だから確率は低いかもしれないが、妊娠してしまうかもしれない。もし仮にソンリェンとの間に望まぬ命ができてしまえばきっと殺せと命じられるだろう。それではあまりにも可哀想だ。  それにもしも産むことになったとしても育てられない。自分と同じスラム街の孤児にはさせたくなかった。こんな惨めな存在はトイ一人で十分だ。 「……ぁ、中は……ダメ、お願、い……だから、だめ、や」 「は、こんなもんぶらさげといていっちょまえに女のつもりか、お前」 「あッ、ゃ、はっ……ふぁっ、は、ん、あ……」  手持無沙汰のように萎えた男性器を扱かれ、シーツに頭を押し付けて押し寄せる熱に耐える。  こんな風にソンリェンにそれを弄られたこともなかった。挿れて擦って吐き出す穴ごときにソンリェンは興が乗った時以外愛撫なんて施さない。  だからいつも通り離してくれることを願っていたのだが、ソンリェンは何を考えているのか腰を穿つリズムに合わせて本格的にトイの男性器をも扱き始めた。 「ひ、やあ、ぁ ああ あ」 「……どこに出そうが俺の勝手なんだよ」  騎乗位を強要される時、腹に当たって目障りだから自分で押さえてろと冷たく命じられることもあったというのに。どうして今日はこんなに、執拗に。 「や、ダメ、だっ、ァ、ア」 「妊娠なんてするわきゃねーだろ、お前みたいなこっち擦られただけで濡らすような半端な体が」 「ん、ふ……ん、ぁあ、ああ」  一度吐き出させられた上、膣をえぐられる痛みで硬くすらなっていなかった肉欲だったが、大きな手のひらで包み込まれ緩急をつけて刺激されれば直ぐに快感を拾ってしまう。  本当は無理矢理与えられる快感も激痛もどちらも嫌だ。けれども痛みよりも快楽の方がまだましだ。  何日も何日も気が狂うほどの快楽を与えられた時は逆に痛みが欲しくてたまらなくなったけれども、やっぱり痛いのはとても、苦しい。 「そうだろ、トイ」 「ぁああ、ぁ ああ あ」 「お前は玩具で、穴で、共有物で」  ぐるんと中に入れられたまま向きを変えられて、再び正面から深く挿入される。 「ぁああっ……」  トイの薄い腹がソンリェンの動きに合わせてぐんと波打ち、圧迫感がさらに重くなる。  身体が折れてしまうほどの勢いで早くなっていく律動と、男としての急所をめちゃくちゃにされて、もう何も考えられなくなった。  耳に響く激しく濡れた音は酷使されている膣から聞こえてくる。ソンリェンの言った通りだ、男芯を刺激されて女性器が濡れている。おかしな体だ、男でもなく女でもない、そして男であって女でもある。どっちつかずのくせに男性に搾取されるだけのこの惨めで歪な身体。  もう、腰を揺さぶられているのか自ら迎え入れるために腰を振っているのかもわからなくなる。まともな言葉を発することさえ、できなくて。 「俺の、もンなんだよ」 「ひぁ、あん、あ、あ──ッあ……あぁ」  覆いかぶさってきた大きな体にごちゅごちゅと、最奥を追いうちのように潰されてさらに目の奥が弾ける。  犯されている胎内がいいのか擦られている男芯がいいのかも判断がつかない。開きっぱなしの口からは涎が零れて。もう自分がどこにいるのかさえわからなくなる。 「出せよ、許可してやる」  ぬるりと耳たぶを舐められながら、吐息ごと呪いの言葉を吐き捨てられて、視界が弾けた。 「い、ぁあ、あ、あ、ッ、ァ──、」  自分の力では抑えきれないどろどろとした大きな波が腹の奥から噴き出す。  今までにないほど至近距離からじっと見降ろされていることを気にする余裕もなく、背を丸めながら腰をガクガクと痙攣させて悶絶し、白濁液を撒き散らかした。  同時にベッドが大きくグラインドするほど深く突き上げられて、隙間なくぴっちりと収まりきったソンリェンの肉棒が中でびくびくと痙攣したのがわかった。  ダイレクトに冷たい飛沫が叩きつけられる不快感。いっそ破れてしまうと思うほど、勢いよく中に吐精されている。 「あ、ぁあ あ、ンぁあ、ァン……」  このまま関節が外れてしまうのではと怯えるほど脚を限界まで押し開かれ、ぐん、ぐんとゆるく腰を出し入れされ最後の一滴すら残さず注ぎ込まれた。 「あ、っ、ぁ……」 「あー、くそ……」  イく寸前のソンリェンの熱い吐息が耳朶に吹き込まれる。  吐き出しながら吐き出された。トイの方が絶頂ははやく終わった。しかし射精の余韻に浸ることはできなかった。まだソンリェンのものが激しく脈動していたのだ。  全部吐き出されるまでの時間が、これまでとは比べものにならないほどに長かった。 「ん、んん、ん、ぁ……っ、……」  長い長い時間をかけて、放出が終わった。じんわりと広がる冷たい感覚にぶるりと臀部が震える。  全て出し切ったソンリェンは、ふ、と一息ついて強張っていた体をゆったりと弛緩させた。のしかかって来た体は重く、ふわりと煙草の臭いがきつくなる。  余韻に浸っているからとはいえ、ソンリェンに抱きしめられていることが信じられなかった。  驚くほど近くにあるソンリェンの長い睫毛が、薄い光に照らされて光っている。女性的で綺麗な顔だけれどもその服の下にはしっかりとした筋肉がついていて、多少細いが成人男性の身体つきをしているのだ。  トイとは違い汗ひとつかいていないようだけれども。  そんなどうでもいいことをぼんやりと考えてしまっているのは、嵐のように犯されてしまったことがどこか現実味がなく、今でも信じられなかったからだ。  無防備な体を開かされてもトイの思考を占めていたのは、今トイに無体を働いた目の前の青年のことではなく、別のことばかりだった。  また、汚い体に戻ってしまった、とか。  明日も仕事があるのに、こんな体で子どもたちと遊ぶのはいやだ、とか。  子どもたちに触れたら、子どもたちが汚れてしまう、とか。  シスターに会いたい、でもこんな体じゃ会えない、とか。  やっぱり育児院に住んでなくてよかった、とか。  今日が雨で何も食べられなくてよかった、吐いたらもっと酷いことされてた、とか。  ──結局、トイはいつまでたっても玩具のままなんだ、とか。 「おい、何呆けてんだ」 「ぁ……、」 「別のこと考える暇があるとは余裕だな、まだ終わりじゃねえぞ」  勢いよく引き抜かれ、ぽっかりと栓を失った衝撃にびくびくと痙攣している間に腕を引かれて無理矢理起き上がらせられる。 「うつ伏せんなって尻上げろ」  トイが行動をとる前に頭をシーツに押さえ込まされた。少しでいいから休む時間がほしいのに、それすらも与えてくれない。しかも今度は正面ではなく後ろから。  尻をぱんと強く叩かれる。懐かしすぎる忌々しい合図に、次にソンリェンが使おうとしているのがどちらの穴か直ぐに理解してしまった。 「言ったろ、溜まってんだよ」  手持無沙汰なのかもう一度叩かれる。三度目はないだろう。トイは力が入らず言うことを聞かない両手両足を叱咤し、ソンリェンが使いやすいようにのろりと尻を高く上げた。  苦痛に耐えるためシーツが破れんばかりに強く握りしめて挿入の時を待つ。逃げることも抵抗することもできないのならば、耐えるしかないのだ。これまでと同じように。  震えながらも命令に従ったトイに、どうしてソンリェンが短く舌打ちしたのかはわからなかった。

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