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ミサンガ──45.*

「こら、締めんな……ったく、こらえ性ねえな」 「や、だあ、ぁ、あ!」  酷い圧迫感に半ばパニックに陥り、ソンリェンの機嫌が悪いことも忘れて覆いかぶさってきた背中に爪を立ててしまった。ちり、と痛みに顔を顰めたソンリェンにやんわりと腕を捕えられ、手のひらを重ねるようにシーツに抑えつけられる。  そんな風に組み敷かれたのは初めてだったが、一瞬の休憩もなく始まった激しい律動に思考がばらばらに散らされて、いつもと違うソンリェンの行動を不思議に思う暇もなかった。 「や、ぁあ、んん、ん゛」 「……随分、深く入るな今日は。子宮下がってんのか」 「あ、はぅ、やぶ、れ」 「破れねえよ、こんだけ広がればな。ほら見てみろ」  ぐじゅりと突き上げられ、繋がった部分を眼前に晒される。  トイの広がった膣いっぱいに突き刺さるソンリェンの長い肉の杭は、白い肌を持っているはずなのに浅黒く、あまりにも猛々しかった。  見ているだけで血の気が引く。体をずり上がらせようとしても体重をかけられて阻まれ、成す術なくソンリェンの暴挙を受け入れるしかなかった。 「や、だ……うぁ、あつィ、あつ、ぃ……」  ソンリェンの猛々しい雄が脈打つたび、突き刺さった入口が引き攣れて断続的に痛んだ。いつ限界を迎え押し広げられているそこが切れてしまうかもわからない恐怖にトイは怯えた。 「ぁ、あっ、あ、ぁ」  存在を植え付けるように中の肉を巻き込みながら大きく引き抜かれては、勢いをつけて突き入れられる。歯を食い縛って律動に耐える。  か細い呼吸が喉に張り付いた唾液に絡んで咽せた。  骨盤が砕かれてしまいそうな激しさに、トイはソンリェンに汗で張り付いた前髪を梳かれたことにも気が付かなかった。 「トイ」 「は、はぁ、かふ」  肺から潰れた呼気が、意味もなく押し上げられる。悲鳴すらも出てこなかった。 「トイ、見ろ。俺を」  ソンリェンの額の汗が目の淵に垂れ、染みた。舌でそれを舐め取られて閉じかけていた瞼を薄っすらと開ける。  上下に揺さぶられ続ける視界に、ソンリェンの熱を帯びた青が入り込んできた。  ぼうっと、トイの上で揺れるソンリェンを見つめる。  時折ソンリェンの喉が喘ぐように震え、詰まったような息を吐き出す。上気したソンリェンの頬と、悦楽に耐えるように皺の寄った眉から視線が逸らせない。  それはどこか不思議な光景だった。今までは余裕がなくてトイを組み敷いている時のソンリェンの顔なんてまともに見たこともなかったのだが、今は違う。しかしそれはトイに余裕が出来たからなどではなく、ソンリェンがトイにそういった表情を敢えて見せているからに他ならなかった。  しっとりと濡れた青がトイを見つめ、ほどなくしてふと、目尻に皺が出来た。笑みに近い表情に目を見開く。  トイはここで初めて、いつの間にかソンリェンの機嫌がよくなっていることに気が付いた。 「舌出せ、吸ってやるから」  揺さぶられる痛苦の中、ソンリェンの甘い声はぼんやりと脳髄に染みた。少しでも楽になりたくて言われるがまま震える舌を差し出せば、掬うように絡められて宣言通り吸われた。  苦しいのがほんの少しだけ緩やかになった気がして、トイは無我夢中でソンリェンの舌に自分のそれを絡めようとしたのだが。 「唇、噛みやがって……傷になんだろが」  血の味に気づいたソンリェンに唇を離された。途端に突き上げがダイレクトに腰に響いてきて、トイははやく気を逸らして貰いたくて唇を突き出した。  しかしキスは直ぐには降りてこず、がっついてんじゃねえよ、と笑いを含んだ声を返される。その声色はどこか優しく感じられた。  かわいいな、とソンリェンに耳元で囁かれた時のように。 「は、はぁ、そん、……あ、ん、んっ、んむ」  唇を食むように押し付けられ、少しだけ離れ、角度を変えてまた押し付けられる。  切れた唇の皮をべろりと舐められ、ぴりりとした痛みに顔を逸らすがまた唇を重ねられ、ちゅうと唇が腫れるぐらい吸われる。何度かそれを繰り返されて、ようやく望んでいた濡れた舌が割り込んで来た。 「んっんっ、ふ、ん……」  湿った吐息の中で、うねる深い舌に身を委ねる。 「声、聞かせろ」 「あっ、ぁああ、ふァあ」  冷たくぬるりとした何かが平らな胸先を這ってくる。覚えのある感触だった。ソンリェンの舌に先端を押しつぶすように転がされ舐め尽くされる。大きな音を立てているのはわざとだろうか。  蕩けた交わりの音と、ぱんぱんと肉が打ち付けられる音と、ソンリェンの荒い呼気と、トイのくぐもった悲鳴と嬌声が混じっていく。時折ねっとりと腰を回されて自然と腰が浮いてしまった。  浅い所を擦られ、ギリギリまで引き抜かれては奥まで侵入され、角度を変えてトイがおかしくなりそうな所を重点的に抉られ、乱される。 「あ、ぁんっ……ふかぁ、い、ん、んんッ」 「深く、してンだよ……」 「やァッ! ァ、あ、ん、いや、いやァッ……!」 「何が嫌だ。いいんだろ」 「やぁあ、ふァ、ぁあっ」 「トイ、言え」  ソンリェンの独特な低い声に、思考すらも溶かされてしまいそうで。 「あゥ、ッあ、い、ィい、いいッ……!」 「気持ちいいか」 「あっ、ぁっ、そこ、きも、ひっ……あァアッ、ひァあッ……!」 「……の、淫乱め」  嘲笑を含んだ囁きと共にここぞとばかりに最奥部だけをたっぷりいじめられて、トイは泣いた。  とつとつと奥を叩かれる振動は口では言い表せない。むき出しの神経を削られるような痛みなのに、それすらも上回る快感が膨れ上がって意識が飛びそうになる。ソンリェンから与えられる穿ちを追うように、自ら腰を揺すってもっと深くまでと食らい付いてしまう。  身体の全てが隙間なく、熱かった。 「お前は、誰のもンだ」  熱に浮かされたまま、いつもと同じように「そんりぇん、の」と答える。 「そうだ、お前は、オレの玩具で──」  ふと、ソンリェンが押し黙った。覆いかぶさってくるソンリェンの体温に焼かれてしまいそうだ。 「……お前、俺のもンになるか」  混濁した意識の中、ソンリェンの小さな呟きがぽつりと落ちてきた。俺のものになるかだなんて伺いを立てるような台詞、あまりにもソンリェンらしくない。 「俺のもンに、なれよ」  それは命令ではなく、懇願のようにも聞こえた。金色の髪がちかちかと切れたり点いたりを繰り返す色褪せた電球と重なって瞬く。真っすぐにトイを見下ろす瞳は、透き通るように青かった。  トイがずっと焦がれていた、空と同じ色。   唾液に塗れた口の端にちゅっと口づけられ、こつりと額を合わせられる。ソンリェンの髪がこすれて頬が痒くなった。あの月夜の晩は視線を逸らせたのに、今は出来なかった。ソンリェンの目にどこまでも吸い込まれてしまいそうだった。 「あっ、あぁ……!」  ひと際大きく穿たれて、飛沫が勢いよくトイの中に注ぎ込まれていく。 「あ、ぁあ、───、あ……!」  まんべんなく冷たい体液が流れ込んでくる感覚に頭を振り、重ねられていたソンリェンの手をぎゅっと握りしめる。犯された内壁は燃えるように熱いのに、擦りつける動きに合わせてどくどくと奥に流し込まれるそれは氷のように冷たくて、もう痛いのか熱いのか冷たいのか気持ちいいのかも、わからなかった。  くたりとシーツに身体を預けていると、首筋にソンリェンの吐息が掛かり強く唇を押し付けられた。そのまま背にソンリェンの腕が回ってきて、強く抱きしめられる。筋肉質ではないけれど、しっかりと硬い大人の腕がトイの身体を包み込む。 「なれよ……俺のもンに、トイ」  答えることが出来なくて、口を噤む。  未だにとくとくと脈打つ命の鼓動を身体の奥に感じながら、トイはゆるやかに目を閉じた。

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