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雨音──84.*
「なんで、なん……でぇ」
「なんで、ねえ」
抱え込むように肩を抱かれ、額をこつりと合わされる。
「俺のもンじゃねえっつったな、お前」
するりと唇に這わされた指は、優しさとは程遠い。
「じゃあ壊すしかねえだろ……?」
昏いソンリェンの瞳から、視線を外すこともできない。
外せば最後、喉元から食らい尽くされそうだった。
「玩具以下にしてやるよ」
それは、トイにとって死刑宣告だった。
苛烈な炎が彼の瞳の奥でくすぶっている。ソンリェンは本気だ。本気でトイを壊す気だ。
あの日のように、トイをめちゃくちゃにする気だ。
「ハイデン、ここで降ろせ」
「ソンリェン様、ですが」
「降ろせ、と言っている。聞こえなかったのか」
使用人の名前はハイデンと言うらしいが、そんなことはどうでもいい。
「た……たす」
助けてほしくて前の席に腕を伸ばそうとしたが難なく捕らえられ、さらに抱え込まれる。身体に力が入らないから抵抗できない。
「戻ってくるまでここにいろ」
使用人が僅かに躊躇してから、諦めたように車を止めた。
膝裏に腕を差し込まれ身体が浮いた。そのままソンリェンに抱え上げられ車外に出される。夕日の赤が目に痛い。
近くに雑木林があった。ここはどこだろうか、見たことのない場所だ。
歩き始めたソンリェンの振動さえも体に響く。ざわざわとした感覚にトイはソンリェンの腕の中で身体を丸めるしかなかった。
林の中の、薄っすらとした小道をソンリェンは進んで行った。
時々揺れるのは道が舗装されていないからだろうか、周囲を確認する余裕などなかった。だからそれなりに長い時間をかけてそこに辿り着くまで、トイはソンリェンがどこで何をしようとしてるのかもわからなかった。
該当する場所について、トイはやっとここがどこだかわかった。
広い水辺だ。夕暮れの空に風が吹き、水面を静かに揺らしている。鳥の囀りと、時折小さな魚が跳ねるぐらいの静かな場所。
紛れもなく、トイが気に入っている場所だった。いつもとは道順が違うため気が付かなかった。こんなに早くここへ辿り着く道があったなんて。
どうしてここに、と、ぼうっとする頭で必死に考えていれば地面に放り投げるように降ろされた。
てっきり泥でぬかるんでいると思ったのだが冷たさは感じられない。いつのまにか尻にはソンリェンのコートが敷かれていた。
そのまま躊躇なく圧し掛かられ、服に手を掛けられる。トイはやっとソンリェンの意図に気が付いた。
なぜ、よりにもよってこんな場所で。
「な、んで……や、そんりぇ」
淡々と、素早い手つきでズボンを下げられる。震える体でソンリェンを押しのけようとしたが直ぐにソンリェンの手が飛んできた。
ばん、と右頬を強く張られ、ぐらりと目線が傾く。
「ぁぐッ……」
口の中は切れはしなかったが、じんじんとした痛みに頬を抑えて茫然とする。
ソンリェンに殴られるのはさほど久しぶりでもなかったはずなのに、力のこもった一撃が身体に、心に響いて動けなくなってしまった。
「黙れ、抵抗するな」
冷たく吐き捨てられ、殴られた衝撃に動けないでいる内に下着すらも乱暴に脱がされた。
「ぃ……ゃぁ」
夕暮れ時とは言えどもまだ外は明るい。弱弱しい抵抗などあってないようなものだろう。膝で足を広げられて、トイはあっという間に寒空の下で剥き出しの下半身を曝け出すことになってしまった。
「──ひ、や……ぁ、っ……あ、ぁあ、っん」
膝でぐいと股の間を刺激されただけなのに、いつも以上の快感にトイは仰け反った。頬を殴られた痛みも、じわじわと甘い痺れに変わっていく。
「ぁっ、やぁ、……ああ」
「殴られてこの様か……ぐしょぐしょじゃねえか、漏らしてんのか?」
そう言われても仕方がないような状況だった。触れられてもいないのにすでに完全に勃ち上がっているそれは、だらだらと零れる体液のせいでしとどに濡れていた。
感じやすい身体に開発されてはいたが、いつもはここまでじゃない。
飲み下された液体の威力をまざまざと見せつけられてトイはぼろりと涙を零した。
「ひ、……あ、ぁ」
ソンリェンが、瓶に残っていた液体を剥き出しのトイの陰茎にかけてきた。どろりと垂らされるそれに目を剥く。
「ふ、や…あ、あぁ…ああ……!」
びりびりとした刺激が直接皮膚に浸透してきて身悶える。しかし薬が回ってしまった身体にとっては痛みは激しい快楽以外の何物でもない。つうと肉欲に爪を這わされただけでビクビクと震えてしまう。
まともに回らない呂律で、トイは喘いだ。
「あ、あ、ァ、……や、ぁあ」
極限まで足を大きく開かされ、臀部が上を向くように固定される。柔い尻の割れ目をなぞられ、窄まったトイの穴のその上、女性としての入り口に瓶の口をずぼりと嵌められ、そのまま傾けられる。
「ひ゛ッ……ぐぁ゛」
とろとろと侵入してくる冷たさに全神経がそこに集中する。全て流し込まれてから瓶が抜き取られ、ソンリェンの指が一気に突き入れられた。
「あ……! っぁ、あ、あン……かゆ、がゆい…ぁあ……」
「緩いな」
内壁によく浸透するように指を掻き回され、中でバラバラに動かされる。激しい疼きが広がり腰がうねる。胎内が自分の意思とは関係なく収縮した。
「や、らぁァっ……あ、ひぃッ……!」
「もの欲しそうな顔しやがって」
じゅぶんと指が引き抜かれ、問答無用で宛がわれたソンリェンの陰茎に血の気が引いた。今この状態で挿れられたらおかしくなってしまう。
「ぃ……ひ゛ッッ! まっ……まっ、って、ま、」
「聞こえなかったか? 黙れ」
もう待ってくれとは言えなかった。かちかちと噛み合わない歯が軋み、目を見開いて見上げた夕暮れ色の空がソンリェンの青で埋め尽くされた。
視界いっぱいに、ソンリェンの顔が、ある。
「し、死んじゃ……う」
「──で?」
甘さを一欠片も含んでいない低音は、あまりにも無情だった。
「そん、りぇ……」
「だからなんだ。もう遅えんだよ」
「やぁ、や……ぁ、は……うッ────ッッ!」」
ぱちぱちと耳の奥で音が弾けた。切っ先が、にちにちと粘着質な音を立てて捩じ込まれていく。
挿入された太い陰茎に内壁を擦られるたび、自身の愛液と切れた入り口の血が混ざりあい、じゅわっと染み出してくるのがわかる。
トイの衝撃などお構いなしにソンリェンはトイの震える脚を大きく開かせさらに腰を進めてきた。
ソンリェンの形に無理矢理広げられた内部が燃えるように熱かった。
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