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雨音──85.*
痛くて、熱くて、寒くて、痒くて──恐ろしいほどに気持ちがいい。
「……ぁ、……あ」
一番太い部分がずるり、と侵入してきた。苦しさに喘ぐ間もなく一気に奥にまで灼熱の杭が押し込まれる。腹の奥や心臓の下辺りまでも突き破られてしまいそうな圧迫感と、爪の先まで凍ってしまいそうな快感に身体が激しく痙攣した。
「──ッ──、か」
目を極限にまで見開いているのに視界が狭まっていくのはなぜなのか。
ソンリェンが何か言っている。けれど耳鳴りが酷くてよく聞こえない。
「イったな」
トイの顔を覗いてきたソンリェンは、はくはくと喘ぐトイにつまらなさそうに目を細め、さらにトイの腰を抱え上げて体重を乗せてきた。
奥の奥はぴちりと閉じられているはずなのに、ぐぐっと押し込められてさらに限界まで広がっていく。これまで突き入れられたことのない部分──トイの奥の入り口を越えた最奥部までも蹂躙されそうになり、霞みがかっていた視界が一瞬で真っ暗になった。
「ひ、ィ……は、はいら……」
「入らない? 相変わらずバカだなてめえは」
ソンリェンが、挿入しやすいように覆い被さって来た。
「──入れるんだよ」
ぶちゅり、と奥の窄まりを広げられてトイは仰け反った。
「か、ふ……」
悲鳴を上げることすら出来ず、背中が痺れて瞼の裏でちかちかと星が瞬いた。
「またイッたな……おい起きろ、まだ始まったばっかだろうが」
「あ、ひッ……」
「起きろっつってんだよ」
痙攣する身体をばちんと玩具のように叩かれ、引きずりこまれそうになっていた意識を引き戻される。
「はぁっ……、は、は……」
ぽこりと薄い腹が膨らんでいた。血の気が引く。そんなに深くまで入っているだなんて。
トイは自身の腹部に白いものが散っていることにやっと気がついた。トイの幼い肉茎の先からとろりと白濁が零れている。かなりの量だ、いつのまに射精していたのだろう。
「……は」
ソンリェンが酷薄に笑った。そしてトイの敏感過ぎる幼い男性器を小馬鹿にするように、長い指で、ぴんと震えるそれを弾かれた。
「ひぃッ……!」
「狂え、喘げ、さっさと壊れろ。女も抱けねえ体にしてやる」
「ァっ……」
律動を開始され、成す術もなくがくがくと揺さぶられる。
最初から激しい動きだった。抱え上げられ宙に浮いた足がぶらぶら四方に揺れ動くのを虚ろに眺め、ただ悶えることしか出来なかった。
「……ぬぃ……て」
繋がった結合部で弾ける濡れた音すらも、ガラス一枚隔てているかのように耳から遠い。
「……も、やめ……ぬ、ぬい、…ぬ……っ」
「まだまともに喋れる余裕あんのか、てめえは」
「うッ……、うぅ…ぁぐ、ひ」
「何が抜いてくれだ。美味そうに咥えこんでるくせに」
ソンリェンの言葉通り、トイの薄い腹は彼の肉を食らいつくすようにうねっていた。ソンリェンが見せつけるように腰を揺さぶってくる。
「腹膨らましやがって……妊娠してるみてえだな、トイ」
「ひ……ァ、う」
「孕んじまえよ、お前」
内部に収まっている熱が、ごりとトイの腹部を波打たせた。それが本当にトイの胎内で蠢く生き物のように見えて、トイは溜まらず目を瞑った。
「背けてんじゃねえよ見ろ、おら」
ぐいと引き千切られるほどの力で髪を引っ張られ、至近距離で囁かれる。ソンリェンに伸ばせと命じられた髪を。
「膨らんだ腹であの女に言いにいけよ、好きだって。どんな顔されるか見ものだな」
返答を促すようにべろり、と顎に舌を這わされた。
まだ残忍な暴行は始まったばかりだと言うのにトイの身体は崩壊寸前だった。少し肌を撫ぜられるだけでガクガクと跳ねてしまう。
理性が、思考が、羞恥が、恐怖が、身体の中で暴れまわるあの薬のせいで溶かされていく。
「い、や……だ」
「イイんだろ?」
「ぁ……ァ、あ」
激しすぎる悦楽に、意識の全てが持っていかれそうだった。ちゅうと胸先に吸い付かれがくがくと身体が仰け反る。ソンリェンがトイの痴態を鼻で笑った。
「おら答えろ。ちゃんと言えたらもっと突いて楽にしてやる」
ソンリェンの言葉がぼんやりと脳髄に染み渡る。この苦しさから解放して貰えるのであればもう何をされたっていい。弾けた思考のままこくこくと頷く。
「い……い、いい、いい……っ」
言うやいなや、ソンリェンにさらに股を広げられ激しく穿たれ始めてトイは悲鳴と嗚咽を零すだけの人形になった。
犬のように鼻をひくつかせながら仰け反る。なんでもいいから楽にしてほしかった。
「あ、ァ、ぁッ……あっあ…ぁッ……ぅ、ぁ」
「どこがいい」
「そ、こ……ッ、あっ…あっ、そこぉ」
ぐじゅぐじゅと果実が潰れるような水音と共に何度も腰を打ち付けられる度、極限まで広がった奥がずぼずぼと広げられていく。もう奥まで来たのにまるで果てがない。
抜いてほしいと切に願っていたのに同じくらい貫いてほしくてトイは自ら足を開いて貪欲にソンリェンを迎え入れた。
「──ぁ、はぁ……ぁんッ、そこだめっ、だ、ぇ……!」
律動に緩急がついてきた。ソンリェンと繋がった部分は穿たれれば穿たれるほどどこまでも熟れていく。
口の端から飲みきれない涎がだらだらと垂れる。ばちゅんばちゅんと、快感を求めて震える膣内の奥に広がる襞すらも叩き潰されてトイは顔をのけぞらせて絶叫した。
「い、やぁああッ……ぁア……!」
上を向いている幼い肉の芯が、律動に合わせてゆらゆらと震えている。抉る動きに合わせてはしたなく涎を垂らす茎を手持無沙汰にごしごし擦りあげられただけで、トイはぐしゃりと顔を歪ませながら3度目の精を放った。
「ぁ、ァあ……ぁ…ッ……」
「まだまだ濃いな」
それでも、まだまだ熱は治まらない。
「──痛いっ、痛いぃッ……よお、んぃ、ァ……あん、ん」
痛いとうわ言のように呟くトイに、ソンリェンはせせら笑った。
「痛えわけねえだろ、どろどろ零しやがって」
「あ……ぁあ、ぁあ、ァ……ぁ」
繋がった所がにちにちと泡立ち、ソンリェンの赤黒い肉欲がトイの甘いところをさらにかき回してくる。身体の奥で膨れ上がるマグマのような熱から逃れたくて、トイは必死に足指を丸めた。
「あっぁ、アッ……ぐ、やら、あ……ぁあ」
広がり切った内部は鋭く擦られ続けてとても痛いのに、それ以上にものすごく気持ちがいい。首に、耳たぶに、鎖骨付近に噛みつかれても、痛苦は圧倒的な快感へと変わっていく。
「いいっ……あ、ぁ あ あ」
荒々しく迫りくる波に飲みこまれ、無我夢中でソンリェンから与えられる熱に善がり狂うことしかできない。トイは身悶えながら両脚をソンリェンの腰に巻き付かせ、自ら腰を振った。
さらなる快感を求めるために。
「ァッきも、ひ……そこぉ、つい…ついてッ……ぁ、いい、いっ……!」
「……の、淫乱が」
ソンリェンの瞳にトイの上気したみっともない頬が映っていた。
目じりに溜まった水滴が日の光を受けてきらりと流れる。淫乱だと言われたがその通りだ。喉が痛いはずなのに、溢れる嬌声すらも止められない。
ソンリェンの大きな手の中にあるトイの陰茎は、出したばかりだというのに先ほどよりも芯を持ち、彼の手の中で激しく脈打っていた。少し刺激を与えられてしまえばきっとまた弾ける。
「あ、ァ、あ、き、きちゃっ……きちゃ……うぅッ」
「好きに出せ」
いつものように汗ばんだ前髪を払ってほしいのに、ソンリェンはトイを冷たく見下ろすだけで何もしてくれない。
けれどもその冷えた視線すらも、今のトイにとっては快感に変わる。
「あ、あっ、あぁ……あぁあッ、だめ、だ、あ、だめ……いっちゃ、また、イ、イく……っちゃ、ぅ、や、ああ」
ひっきりなしに伸び切った足で地面を蹴り飛ばす。土で汚れても構えなかった。
「きも、きもちぃよぉ……あッ、ァ、あ、ああ……イくっ、い、ぐ」
「この色狂いが」
嘲笑されながら、尖り切った胸先を交互にしゃぶられ泣き叫ぶ。
ただ熱を解放したくてたまらない。壊れるくらいにトイの胎内を掻き回してくれる肉に、トイは恍惚とした表情を浮かべながら腰を突き出した。
『玩具以下にしてやるよ』
絶え間ない熱に煽られながら、トイはずっと泣いていた。
痛い、こわい、苦しい、辛い──寂しい。
トイはずっと、玩具だった、人形だった。
人間になりたいと願うこと自体、愚かなことだったのだ。
ソンリェンの望む通り、いっそのことこのまま悦楽を求めて泣き叫ぶ人形になってしまえば苦しくなくなる。
哀しみもわからない、感情のない玩具に──それ以下になってしまえば、自ら心を壊してしまえば。
楽、に。
「トイ?」
耳に届いたか細い声に、一瞬にして熱が下がった。
かくかくと震えて思うように動かない首を回す。そう遠くない場所で、がさりと草をかき分ける音が響いた。
「トイ、そこにいるの?」
トイが聞き間違えるはずがない。
それは紛れもなく、トイの友達の声だった。
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