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雨音──86.*
「トイ、いないの? おかしいな……声聞こえたんだけど」
さらに気配が近くなる。トイはソンリェンから逃れるため肩を押しのけようとしたが、元より力の入らない身体だ、腰をがっちりと固定されて動けなくなった。
「そ、んりぇん」
トイはソンリェンを見上げ愕然とした。ソンリェンは目を細めて笑っていた。
「時間ぴったりだな」
「そ──あッ……ひ、ぁあ!」
トイは目の前の男の名を呼ぼうとしたのだが、その代わり口から零れたのはか細い悲鳴だ。
あろうことかソンリェンは、行為を中断するのではなくトイの腕を再び拘束し、内壁を深く抉ってきたのだ。数秒唖然とし、直ぐに思考を立て直してがむしゃらにソンリェンの下から逃れようとするも、腕をコートの上に叩きつけられて深く覆い被されてしまう。
「ふ、や、ぁあ、らあ」
「見せてやればいいだろ」
「や、ら、そ、そんりっ……ゆるし、おね、が……でぃ、ディアナっ……!」
──がっと口を抑えつけられ、声を奪われる。
ソンリェンの鋭く青い瞳にひたと目線を合わせられた。
「うるせえなあ……」
間延びした声色にぞっとする。ソンリェンは恐ろしいほどに据わった目をしていた。
「なんのためにここで犯してると思ってんだ……てめえが誰のもンか、あの女に分からせてやれ」
口は解放されたが、獰猛に歪んだ眼孔に身体ごと縫い付けられた。トイはやっとこれは初めから仕組まれていたことなのだと理解した。
よりにもよってソンリェンは、トイが友達を初めて連れて来たこの場所でトイをめちゃくちゃにしようとしていたのだ。
どんどん近づいてくる足音なんて気にも止めずに開始された律動に抗うことは、出来なかった。
「あ、ひぁあ、あッ……──ッ」
ソンリェンの腰使いは今までのとは比べ物にならないほど激しいものだった。弾けるトイのより一層甲高い声に、がさがさと草をかき分けていた音が止まる。
必死に歯を食い縛って声を抑えようとしても、薬のせいで敏感になっている体の奥を的確に、正確に、一寸の狂いも無くめちゃくちゃに突かれてどうしても漏れてしまう。抑えることは不可能だった。
「ぁっ、ん、ぐッ……ぅ」
「ちったあ声抑えろよ……この好きモノ」
「ぁっ、ん、あンっ……ぁ、やだ、だ…め、ゥ、ん、んんッ──!」
ソンリェンの罵り声がやけに大きいのは、ディアナに聞かせるために決まっている。
「やっ……ァ、あ、おねが……や、あぁあ」
「トイ、言え。じゃなきゃあの女、輪姦するぞ」
耳元でトイにだけ聞こえる声で囁かれる。その声色は本気だった。
「てめえの目の前で散々輪姦してボロボロにしてやる。誰とも知れねえガキ、孕むまでな」
瞳の奥には、隠し切れない鬱々とした情動が見え隠れしていた。
そこにあったのは、トイにとっての絶望だ。
トイはまた、間違ったのだ。
ゆっくりと唇を強く噛みしめる。かさりと、控えめな音を立てて背後で足音が止まった。
か細く息を飲む声が聞こえた瞬間、ぐんっと突き上げられ思考は直ぐに分散させられた。
「あ、ひぁあ…あッ……んぅ──ッ」
ソンリェンが言え、と再び口を動かした。逃げ出せばソンリェンの怒りの矛先は確実にディアナに向く。言いたくない、喘ぎたくない、こんな浅ましい姿をディアナに見られたくない。
けれども身体は熱くて熱くてどうしようもない。男に激しく犯されている光景を他でもない友達に見られているという恐ろしい状況なのに、もっとはやく擦り上げてほしくて腰が揺れてしまう。
空気に触れる皮膚の全てが痒くて痒くて、身体じゅうがソンリェンの身体を求めている。
それに、ソンリェンを拒めばディアナが──。
「ほら、いいんだろ?」
「あっ……ぁん! っう、ふぁあ、や、あ……やめっ、て」
「止めていいのか?」
ぴたりと唐突に穿ちを止められ、さらにはゆっくりと内壁を巻き込むように引き抜かれてトイは泣いてソンリェンに追い縋った。
ソンリェンが欲しくてたまらないのにソンリェンは動きを止めたまま熱を与えてくれない。
襲い来る絶望的な状況に、ディアナに見られているという現状が頭の中から消えてしまいそうになる。
「ぁ……ぁン、ひ、ぐ」
「言わねえと、ずっとこのままだぞ」
死ぬ気で欲しているものが与えられなくて奥がきゅうきゅうと収縮する。
痒くて気が狂いそうで、苦しい。助けてほしくて、もうそれしか考えられなくなる。
「あっあ、やァっ……や、やめ、やめない、で、抜かないでぇっ……!」
「どっちだよ」
「や、ぬかな、うっ……い、いれて……してぇ」
「どんな風に」
「ぐちゃぐちゃ、にっ……して」
「何を?」
瞼の裏に、男たちに弄ばれて虚ろな目でベッドに打ち捨てられるディアナの姿が見えた。ソンリェンに逆らえば、ディアナがああなる──いや違う。あれは、トイの姿だ。
「と、トイの……トイの、おねが、はやくッ……」
トイは子どものように髪を振り乱して、泣き叫んだ。
「てめえの何をだって、聞いてんだよ」
もう限界だった。大切な人を傷つけられるのも、身体を中で暴れまわる快感を放置されるのも。
「ちょ、ぉだい……ほし、ほしいのっ……そ、そんりぇん、の、おちんちん……ッちょ、だい、ァ」
「どこに」
「ァっ…きもち、ぃぃの……お、おまんこっ……はやく……はやく、トイのおまんこ、掻き、掻き回してぇ、ァ、ああ…あ───!!」
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