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雨音──87.*

 くつ、とソンリェンが喉でトイを嘲った。トイは強く瞼を閉じて、再び押し入ってくる熱を痙攣しながら受け入れた。  どこからか悲鳴を押し殺すような声が聞こえて来てまともな思考が浮上しそうになったが、直ぐに叩きつけられる波に飲み込まれて考えていたことなんて忘れた。  ソンリェンの首に縋りついて、ただただ激しい律動に成すがままにされる。 「ァッ、あんっ……あ、ふぁ、いい、いいよぉ……ッァ、あッ……」  体液がどんどん溢れるせいで音も同じくらい響いてしまう。ひっきりなしに上がる濡れた音と、ぱん、ぱんと肉が激しく打ち付けられる音にすら、悦楽が煽られる。 「あっ、あ…ダメ……そこ、ダメぇッ……」 「いいんだろ」 「んっ……ァ、あ、きも、ちいよぉ……ッ…」 「これ、どうする?」 「さわ、触ってぇ……もっと、っトイの、おちんちん、さわってぇ……おね、おねがッ」  ぬちぬちと緩く扱かれるだけでは刺激が足りず、腰を上下に回してソンリェンの手の平に自ら肉欲を擦りつけ快感を拾おうとすれば、しょうがねえなと嘲笑われた。  ソンリェンの指に激しくもみ扱かれてトイは身体を仰け反らせて天を仰いだ。空が赤い、淀んだ血みたいに。  夕暮れと、与えられる快感と、目の前にいるソンリェンで視界がぶれ続ける。 「あ、ァ、あ……ふァ、あっ…あ、ン……ッ……」 「そんなにキツく咥え込むな。そろそろイかせてやるよ」 「 ……ん゛ん──」  噛みしめていた唇の隙間を舐められ自然と口を開く。舌が差し込まれる前にソンリェンの舌に食らいついて、貪るように絡める。 「は、ぁ……あふ、あ」  ソンリェンの唾液が甘く感じられて、無我夢中で啜る。口の中も掻き回してほしくて大きく開ければ、迷いなく深く重ねられた。  歯列を舌でなぞられるだけでぞくぞくと薄ら寒い悪寒が這いあがってくる。 「ふ、ん……、ん、んふ……ふァ」  激しく突き上げられながらゆっくりと舌が引き抜かれていく感触が切なくて、離れてしまう唇を追いかけるように舌を突き出す。 「こら、がっつくな」 「やっ……ァ、して、して、キスぅ……ん、んん」  求めるがまま、淫猥に口を食まれる。  ねっとりと絡む舌に悦びを引きずり出されるのが気持ちよくてもっとと強請ってしまう。その間にも穿つ激しさは増し、中の肉を削り取るかのような勢いで膣内を抉られる。 「んっん──、んぅ、ふっ……んッふ、ぁ」  長い時間をかけて唇が腫れあがるくらいまで吸われ、口の周りが二人分の唾液でべたべたになった頃トイは既に酸欠状態だった。  トイは舌を口の中にしまい込むことも忘れて、絶え間なく唾液を零し続けた。 「、ぃく……イっちゃ……いく、出るぅ、あ、あん」 「……もう少し、堪えろ」 「だって、ぇ、も、だ、め……だめイキた、イキたいぃ」 「しょーがねえな」 「でちゃう、でちゃうっ……でちゃ、きもちぃい、そんりぇん、の……ふといの、ほし……ぁあ!」  ソンリェンの血管の浮き出た太い肉の杭がトイの中を激しく出入りし泡立つ結合部も、そこからだらだらと零れる二人分の体液も、ソンリェンの手に扱かれ、しとどに濡れそぼり放出を待つだけの張りつめた幼い性器も全て見られている──誰に、だっけか。 「っ、あぁあひ、ん、んっふぁあ……っ、イく、出る、イく、ぁぅっ、──!」  最後に胸先にがぶりと噛みつかれながら、どん、どんと深くまで突かれて目の裏が弾けた。  緩いストロークをくり返され、押し出すよう冷たい飛沫が勢いよくトイの中に吐き出されていく。  びたびたと膣内に射精される衝撃に、トイもひと際高く鳴いて腰を突き出しながら仰け反った。 「っ……ふ、ぁあ、あ…あぁ……!」  トイは焦点の定まらない目で、自身の性器の先が開閉し、弧を描きながらびゅくびゅくと大量の白濁液を吐き出す様を見てしまった。  そして仰け反ったその先にある草木の隙間の影で、茶色い髪を三つ編みにした誰かがふらりと傾いたのも。 「──失せろ、邪魔なんだよ」  ソンリェンが顔を上げて、誰かに向かって吐き捨てた。誰だろうと濁った視界を開こうとしたが、ソンリェンにくいと顔を戻され唇に舌を這わされて直ぐに集中力が切れる。  ぼうっとしながら口を開いてソンリェンのキスを受け入れる。荒れ狂う快楽の嵐が一つだけ消えた。 「ん、ふ……」  どくどくと波打つ心臓と重なるように、誰かの足音が遠ざかっていく。  誰だろう、ともう一度考えて、ようやく思い出した。そうだ。  そうだ、ここには友達がいたんだった。  全部見られてしまったんだ。ディアナに。  一緒に穏やかな時間を過ごしたこの場所で。    ソンリェンの熱い唇が離れる。彼はディアナが立ち去った方向を見つめて薄く笑みを浮かべていた。氷のように冷たい瞳で。 「そんりぇ、ん」 「あ?」 「なんで……」  トイが正気を取り戻したことを知ったソンリェンは、直ぐに酷薄な笑みを消した。首を絞められた時と同じような無表情が現れる。 「酷え、よ」  泣きすぎて渇いたと思っていた涙がぽろりと零れた。未だに身体の奥からは絶え間なく快感は湧きあがってくるが、それ以上に心の痛みが湯水のように溢れて胸が張り裂けそうになった。 「てめえが俺から逃げようとするからだろうが」  吐き捨てられた声に温度はない。  ソンリェンにトイの悲痛な叫びは届かない。 「あの女なんかにやってたまるかよ。馬鹿だなお前は、さっさと俺のもンになっとけばよかったのにな」  壊された日に使われた薬を、飲まされたこと。  トイの大好きなこの場所でディアナの目の前で犯されたこと。  そして何より、見せしめのためだけにソンリェンに犯されたことが辛かった。

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