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第1話

身体だけでもいいとか昼ドラかよ、なんてもう馬鹿に出来なくなってしまった。 俺たちの、俺たち親子の関係はとっくに狂っている。 「ただいまー」 あいつが帰ってきた。 俺はその声を聞き、リビングでじ、と待つ。 声音と足音から今日は機嫌がいい事が窺える。 ガチャ 「ただいま、綺音(あやと)」 その辺の女なら一時見惚れてしまうだろう笑顔を浮かべてあいつ、俺の父親は俺の方へ歩いて来る。 「おかえり、おとーさん」 俺もその笑顔に努めて笑顔で返した。 きっとそれひとつでこいつの機嫌が損なわれてしまう。 きっちりと結んだネクタイを緩め、ソファへ座る。 ふぅ、とひと息吐くと 俺を見て 「綺音、」 と自分の膝を指しながら呼ぶ。 ここに座れ、そういう事だろう。 いい歳をした男が父親の膝に座るなんて 抵抗が無いわけがない。 俺だって恥ずかしいに決まっている。 もう高校生。多感なお年頃。 けれど、こいつの機嫌を損ねる方が面倒だ。 俺はおずおずと父さんの膝に腰を下ろした。 「おや、違うだろう? こっちを向きなさい」 背中を向けて座った俺を持ち上げて 対面させられた。 思わず反射的に顔をく背ける。 「なんだ、まだ恥ずかしいのかい?」 可愛いね 父親は俺の腰を引き寄せ、顔を近づける。 「綺音……、可愛いよ……」 「んっ」 父さんの綺麗な顔が、形の良い唇が近づいてきて 俺のそれと重なる。 子供みたいなキス。 何度も何度もされるうちに息が上がってきてうまく頭が回らない。 「ん、はぁ、本当、可愛いねお前は」 「んっ、おと、さ」 こうなってしまえば俺はもう流されるしかない。 抵抗する術を知らない。 段々と深く、水音の混ざった口付けへと変わっていく。 父さんの舌が俺の口内を犯していく。 「は、綺音……」 「んっ」 俺たちの間に銀色の糸が伸びる。 生理的な涙で滲む視界の中、父さんと目が合った。 「綺音……」 父さんは舌なめずりをして俺を見つめている。 その顔は親の顔ではなく、ただの雄の顔をしていた。 その顔にゾクリと快感が走った俺は狂っているのかもしれない。 狂っている。 俺も。目の前のこの男も。 もう、後戻りなど出来ないのは分かっている。 それでも俺はこの男を 愛してしまった。

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