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第2話

甲斐 綺音(かい あやと) 俺の名前。 母親の綾子(りょうこ)の綾の字が「あや」と読める事から付けられたらしい。 俺は母親の記憶があまりない。 というのも、俺が小さい頃に母親は亡くなってしまったから。 病気だったそうだ。 母は幼い頃から身体が弱く、俺を産んだことも奇跡的だったという。 俺の朧気な記憶の中で覚えていることといえば、母の膝の上に抱かれ子守唄のようなものを歌われていたことと俺を優しく包む腕と温かな母の笑顔。 そんなものだ。 だから、母がどんな人だったのか分からない。 母方の祖父母に連絡を取ろうにも、母が亡くなってから交流がないのか連絡先も分からない。 ただ、家には母の写真が沢山あった。 それは俺と一緒に写っているものもあれば、もっと若い頃、多分父と付き合っている時のものもあった。 今は見ることも少なくなったけれど、写真のお陰で寂しいと感じることもなかった。 父さんと母は高校生の頃に出会い、付き合い、そのまま結婚したらしい。 母方の祖父母は当時、大反対だったそうだ。 それもそうだろう。 結婚を申し込んだ時、母は17、父さんは19。 しかもその時、母のお腹には既に俺が居た。 未成年同士の結婚、何より病弱な娘を孕ませたことが祖父を激怒させた。 母の実家は名家、世間の目もあったのだろう。 そこの一人娘が未成年で子を成すというのはすぐ噂にもなろう。 それでも俺がこの世に存在するのは 母が強く、俺を産みたいと願ったからだという。 愛する人の子を産みたいと。 母の懇願により、渋々祖父母は承諾したそうだ。 そして母は俺を産み、数年ではあるが俺を愛してくれた。 自分の命を削ってまで俺を産んでくれた母を俺は尊敬するし、大好きだと思っている。 母が生きていれば、きっと写真や記憶にあるように愛してくれただろう。 けれど、今は。 母のことは大好きだ。今でも大切に思っている。 けれど、そんな母を裏切ってしまった。 母の愛した人を、愛してしまった。 親子としてではなく、ひとつの男女のように。 この関係がいけないと分かってはいる。 でも俺からは断ち切れそうにない。

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