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第3話
俺たちの関係はいつから狂ってしまったのか。
明確に始まったのは俺が中学に上がった頃。
けどきっと初めから狂い始めていたのかもしれない。
物心ついた頃から、俺には父さんだけだった。
保育園の送り迎えや学校行事、家の事……。
母親がいないから、俺が小さい頃は全て父さんがやってくれた。
子供は良くも悪くも正直なもので
保育園から小学校低学年までは
同級生から「お前ん家、いっつもパパしか来ねーよなー、なんでママいねーのー?」「あやちゃん家へーん」などと言われたりしたが
俺には関係なかった。
だって
「ぼくのパパはせかいいちかっこいいじまんのパパ」
だったから。
今なら恥ずかしくて死ねるレベルだが
当時の俺は
若くてかっこよくて優しくてなんでも出来る父さんが自慢で、大好きだった。
「綺音くんのパパ、かっこいいわねー」
と保育園の先生に言われると嬉しくて
無垢な俺は迎えの度に「ぼくね、しょうらいはパパのおよめさんになるの!」と言っていた。
その位、父さんのことが大好きだった。
若くてかっこよくて優しい。
父さんは近所でも評判の父親で、常に奥様方の噂の的だった。
一緒に出かけるとすれ違う女性の殆どが振り返るほどの見た目。
身内の贔屓目を抜きにしても美形だと思う。
そんな父さんは学生時代から、それはモテたらしい。
自分から行動はしないが、来る者拒まず去るもの追わずで恋人は耐えなかったそうだ。
それが母と出会い、変わったのだといつか父さんは言っていた。
『ママはとっても綺麗な人で強い人だったんだよ、パパの生き方を変えてくれた素敵な人なんだ』
『すてきなひと?』
『そうだよ。ママに出会ってパパは変わったんだ。綺にはまだ難しいかもしれないね。 つまり、パパはママが大好きってことさ。綺もママのこと大好きだろう?』
『うん!』
そんな会話を遠い昔にした記憶がある。
確かに、写真の母は美人だ。
色白で黒く長い髪が映えて、瞳は真っ直ぐと前を捉えていた。
芯の強い人、という印象があった。
先輩と後輩という間柄だった二人は初め、犬猿の仲だったらしい。
正義感の強い母と遊び人の父さんとの出会いは最悪で、校内で遭遇する度違う女生徒を連れている父さんを風紀が乱れると注意したのがきっかけだった。
今までそんな風に言ってくる人間が居なかった父さんにはそれが新鮮だったのだろう。
揶揄うつもりで交際を申し込んだはずが、いつの日か父さんの方が本気になった。
それからは母一筋で真剣交際を続け、俺を妊娠したのを機に結婚したそうだ。
父さんは母を語る時、本当に愛おしそうに写真を眺めていた。
愛していたんだ、本気で。
子供ながらにそれが伝わってきて、俺もそれが嬉しかった。
それなのに。どうして。
父さんの母への愛は本物だろうに。
あの日、全てが変わってしまった。
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