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第7話

俺は父さんのことをこれ以上ないくらい愛しているけれど、父さんは違うだろう。 親としての愛情は持っているだろうけど、それ以上の感情はないように思う。 俺の気持ちには気づいているとは思う。 けれど、それを知っている上で、俺を抱いているのは ただ、利用したいだけだろう。 俺の気持ちを。 俺なら拒まないだろう、言うことも聞くだろう。 父さんにとっては都合がいいに決まっている。 うちは外では仲の良い親子で通っているし、外で多少くっつき過ぎても変に思われることもない。 それに父さんは俺に名前を呼ばせない。 一度、自分の気持ちに気付いた時に「慧人さん」と呼んだことがある。 父さんは綺麗に笑って「綺音、お父さん、だろ?」と言われてしまった。 その時の父さんの笑顔は綺麗だったけれど、有無を言わせないくらい怖さを感じた。 俺たちは親子、それ以上でも以下でもないと言われている気がした。 俺はそれ以来、父さんを名前で呼んだことはない。 時々、妄想で呼ぶことはあるけど。 親子である事を恨んだこともある。 けど、それを口にしてしまったら、何もかもが終わってしまう気がして、俺は自分の気持ちに蓋をして 行為の時に紛れて「好き」を口にする。 行為中なら許される気がして。 それに、父さんは俺を通して他の誰かを見ているように思う。 その誰かはきっと亡くなった母だろう。 父さんは俺が成長する度、「母さんに似てきたね」と嬉しそうに言っていた。 その顔が本当に愛しそうに見てくるものだから、俺も嬉しくて母に似たことを誇りに思った。 けれどそれは次第に俺を苦しめる言葉になった。 自分の気持ちに気づいてしまった今では 母に似ていると言われることが、素直に喜べないでいる。 それだけではない。 行為中、ふと何気なく見た父さんの指には指輪が嵌めてあった。 それを見た時、嗚呼この人が愛しているのは俺じゃないんだな、と悟った。 母のことは大好きだ。 亡くなっても尚、母を忘れない父さんのことも愛している。 それでも 俺を抱いている父さんの中には綺音(おれ)への情愛は無く、綾子(はは)への感情しかない、そう思ったら悲しくて、虚しくて、どうにかなってしまいそうだった。 今はもう、どうにもならない身体だけの関係だと 少し歪な親子なのだと割り切ってはいるつもりだ。 だから、父さんへの恋心など仕舞って 早く、終わってしまえばいいのに……。

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