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1日目

 珍しい依頼だった。  しかも極秘の。  引き出されてきた仕込む相手を見て、男は目を見張った。  この男がこういう表情をすることは珍しい。  だが、驚くのは当然だった。  男の仕事は仕込みだ。  男の身体を、女に変えること。  後ろの穴で、女のように感じて、乱れて、欲しがる身体にすることだ。  愛玩用に、男娼として、男に仕込みを求める者は多い。  男が仕込めば、女よりもはるかに淫らでいやらしい生き物ができあがり、男達はそれに溺れてしまうのだ。  その穴は甘く、淫らに舌も唇も指も動き絞りとり、甘露のようにその乳首を吸ってしまいたくなるのだと。  男の腕には定評があった。  だが。   その目の前に引き出された仕込む相手は、若くはあっても明らかに軍人だった。   しかも、外国人だ。  鍛え抜かれた身体は男娼や幼い少年達とは違ったし、仕込むには年が行き過ぎていた。  18は超えているだろう。    美しい青年だが、愛玩用にするには違う。  それに鎖に綱がないと危険であることもわかった。   裸の身体に鎖で縛られ、それでも、巨体の戦闘奴隷ふたりがかりて押さえつけないとならなかった。  褐色の肌に金の髪。  金の瞳。  背中に彫られた光のような紋章は貴族であることを示すものだろう。  黄金で作られたようでありながら、凶暴な猛獣のようだった。  「黄金の皇子だ。メスにしろ」  依頼主は言った。  本当の依頼主はこの男ではないのだ、と理解した。  黄金の皇子。    敵国の皇子だ。  若いが勇敢な皇子で軍を見事に率いるらしい。  かの国の英雄だ。  先の戦て捕らえたという噂は本当だったようだ。  「皇子を?」  さすがに男も驚く。    王位継承権こそ低いが、それでも、高名な軍人で皇子だ。  仕込むような相手ではない。  「殺しても飽きたらぬとのこと。メスにして、後宮で飼うと帝の命令だ。奴隷に犯させ、それを眺めて楽しむと」  本当の依頼主は帝らしい。  酷く負かされ、皇子を恨んでいるのだ。  だが、皇子を捕らえることには成功した。  普通なら政治取引の材料にする。  だが淫らな性奴に落として、それを眺めて楽しむなど、悪趣味この上ない上に無能だとは思ったが、仕事は仕事だ。  「わかりました」  男は淡々と頷いた。  鎖に繋がれた皇子は、男を凄まじい目で睨み付けた。  恐ろしい目だ。  何人も何人も殺してきた男の目だ。  ならば。  「戦闘奴隷を一人残してください」  さすがに今回は助けが必要だ。  男は仕込みが仕事で、暴力沙汰はからきしなのだ。  軍人相手に勝てるはずがない。  男の頼みはききとげられた。  「どんな者でも一週間でメスにするらしいな。この猛獣を大人しく抱かれるメス犬にしろ」  それが注文だった。  まあ、それならなんとか。  男はそう思った。  そして、始めることにした。    

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