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~プロローグ (1)~

「良い子のみんなー! こんにちはっ! 紅葉先生だよー!」 「……ぷっ…!」 「っ! ちょっとぉー!! 笑ったらダメだよー!」 「ごめん…っ!つい…(笑) ……ゴメンナサイ。」 「もう…っ! 撮り直さないと…っ!」 頬を膨らませる紅葉。 撮影のアシスタントをしていた凪はツボに入ったのか、バレないように後ろを向くとこっそり肩を震わせた。 ふと、リビングの時計に目が入る…。 「あ、紅葉ー? そろそろ支度しないと遅刻するんじゃね?」 「わーっ! 本当だぁっ!」 紅葉は慌ててキャラクターの描かれた色鮮やかなエプロンを外し、愛用のリュックを手にした。 それを慌てて止める凪。 「あ、待て待て! ほら…弁当…! 忙しくてもちゃんと食えよ?」 「うん!いつもありがとっ!」 「しっかり頑張れよ。 紅葉先生?」 凪は少し伸びた紅葉の髪を撫でてそう告げた。 「はぁい。 凪くんはお疲れ様。 今日飲み会だっけ? お迎え行くねっ!」 「いーのに…! ってかお前も来る?」 「ううん、課題あるから…。 あ、夜ご飯はおじいちゃんと食べるよ。」 「了解。 とりあえずあとでLINEする。」 「うん!行ってきまーす。」 改めて行ってらっしゃい…とキスで見送る凪。 同じく玄関先まで紅葉を見送るのは平九郎と去年から新しく家族となったラブラドールレトリバーの梅(うめ、元保護犬、雌2歳)だ。紅葉はスニーカーを履くと彼らの頭を優しく撫でた。 梅の他にも金魚が2匹増えた。 今年の夏祭りに紅葉がどうしてもやりたいと金魚すくいをやって…案の定一匹も取れずに泣きそうな顔をしているのを見た凪が、ドラムで鍛え上げられた手首のスナップを活かして(?)取った金魚だ。 歴代のプレゼントの中でも最安値(200円)だが、紅葉が一番喜んでくれたのがこれだった。 古風な金魚鉢に入った赤い金魚を横目に凪は欠伸をした。 「ふぁ…! さてと… シャワー浴びて寝よ…。 2人(2匹)で遊んでてな?」 紅葉との交際も間もなく丸3年を迎える。 紅葉は相変わらず… 見た目的には多少大人びたが、童顔なので居酒屋では100%年齢確認をされるし、期待した程身長は伸びなくて(165cm→166.2cmを167cmと多少詐称した数字をプロフィールに書いている)…まぁ本人はあまりゴツくなりたくなかったみたいだからホッとしていたが、まだ背は伸びると言ってるようだが…凪を始め、周りのみんなはもう限界だと思っている。 あ、スケジュールの合間にみなと一緒に教習所へ通って免許も取り、でも買った車は中古の軽自動車だ。 でも実家には日本車をプレゼントしている。 出逢った頃と変わらずの素直で一途な性格と天才的な音楽の才能に努力を重ねて、学業とバンド活動を両立させている。 今日も朝早くから幼稚園へ実習へ向かった。 因みにさっきのはYouTube用の録画を手伝っていたのだ。【紅葉先生(見習い)の楽しい音楽教室】というチャンネルで、けっこう人気らしい。 凪は毎日忙しい中、一言の弱音も吐かずに頑張る紅葉をサポートしたくて、最初は紅葉が自分で作っていたお弁当作りを担っている。 そうすることで平日の朝だけは少しだけ2人で過ごせる。

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