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第241話(6月)(21)

「ん、弾けてんね。いいんじゃね?」 電話越しに録音した先生のお手本の演奏と紅葉の演奏を聞き比べた凪はOKをくれた。 「うん…、ありがと。 じゃあ…帰ってもいいかな?(笑)」 「はは…(苦笑) 何、もう帰りてーの? 淋しい? いや…物足んないんだろー?」 さすが…凪にはお見通しのようだ。 「淋しいのもあるけど…! 正直Linksの練習が懐かしいです。 …パート分けされてて、みんなで弾けないとなのにまだ合わせられてないよー。 他の仕事で抜ける人もいるし。これはなかなか揃わないかな… 一応全部のパート弾けるようになったけど、教えるの…難しいー。」 「あー、まぁ…音楽未経験の人には難しいんだろーな。」 「合わせたら楽しいし、カッコよくなるの分かる! でも無理とか、こんなの出来ないって言われちゃうと…」 「テンション下がる?だよなー…(苦笑) 大変だなー…」 「移動中に愚痴ってごめんね! もう着く? 僕、これからヴァイオリンの練習してくるね! ラジオ頑張って!」 「おー! ってか、愚痴くらい全然いいよ。 練習終わったら連絡して? あ、紅葉…! お前のスゴいとこの1つはさ…めげずに向き合って努力するとこ。」 「凪…! うん…。」 「教えようとしなくていいんじゃね? そこはもう先生に任せてさー。 出来ないやつには練習すれば出来るって伝え続けるしかないよ。それでどこまでやれるかは本人次第だけどさ…。その先にある感動を知ってるお前なら、今までの経験を思い出しながら前向きな声掛け続けろ。」 「…うん…!分かった! そうしてみる! ありがと、凪!」 〜後日談〜 「確かに僕は生まれる前から音楽が身近にあったし、絶対音感もある! ヴァイオリンも弾けるし、本格的にベースを始めてバンドでソロ任せてもらえるまで1年ちょっとでした。 でも…っ!Linksのコーラスマイクはまだもらえてません! …僕も歌いたーいっ! リンちゃん(元アイドルのタレント)にダンス教えてもらったから一緒に歌って踊ります! リーダーっ!(光輝のこと) 上手に出来たら僕にもマイク下さいっ!」 番組内のミニコーナーとして余興を披露する機会があったらしく、好きなことをしていいと言われた紅葉の暴走に光輝はプロデューサーとのオンライン会議でVTRを確認し、言葉を失っていた。 「…カットで。」 「面白いんで番組的には使いたいんですけど」 「……歌唱の部分もうちょっとなんとか誤魔化してもらえます? うちのバンドの信用に関わるんで。」 「…善処します。 こっちの紅葉くんが凪さんと公園で早朝デートしてたって目撃証言のやつは入れてもOK? まだ未編集なんですけどー。」 「…犬の散歩ですよね? ゴールデン番組ですしマイノリティに触れすぎない程度であればお任せしますが、編集出来たものは確認させて下さい。」 「あ、そういえば差し入れまで頂いちゃってー。 京都のお菓子、みなさん喜んでましたよ。 凪さんってもっと怖い感じの方かと思ってましたが、すごく丁寧にご挨拶いただいて女性中心に大人気でしたー!今度和太鼓とかどうですかね?」 「……はは…!」 光輝はしばらく頭痛に悩まされたらしい。 放送後の反響は上々で、ほぼ同じタイミングで紅葉が出演した化粧品のCMがOAされたのもあり紅葉の人気はバズっていた。 「…バラエティー呼ばれるんじゃない?」 「え…?! でも…ヴァイオリンとモデルのお仕事もあるから…! 親子で聴ける音楽会もやりたいし!うーん…! それに…これ以上凪との時間減るのやだよ…。 淋しい…」 しゅん…としながら凪に寄り添う紅葉。 「…! まぁ…だよなー(苦笑)」 「そうだっ! 凪っ! 早速やろー!」 「ん…っ? え…、今…っ?!」 「うん!」 「…まだ朝……ってか…、まぁそれはいいけど…。 このあと蕎麦食いに行くんじゃ……?」 「行くよー? あ!お蕎麦、ギフト用もあるみたい! お義母さんたちにお菓子のお礼にどうかなー? …!時間ー! とりあえず…あんま間空くと良くないし! ね!出かける前にササッと!」 急ぎソファーから立ち上がる紅葉に戸惑う凪。 「あー、うん。そう…だけど… あれ…?紅葉…っ?! そんな感じ…だった?(苦笑)」 手を引かれて向かった先は寝室ではなく、練習部屋で…。勘違いを悟った凪はガックリしつつ反省した。 「凪ー? どーしたの?」 「いや……何でもない。 …で?…何やる?」 「えっとねー…」 ドラムセットの前に座る凪。 スティックを持ちなんとか気持ちを切り替える。 ベースを抱え、凪の元へ歩み寄る紅葉はわくわくした顔で練習内容を提案していく。 奏で重なる音と振動に音楽への愛を改めて感じ、そこに加わる愛する人の笑顔に幸せを噛み締めた初夏の朝だった。 fin.

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