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第240話(6月) (20)

(以下、2P加筆修正させて下さい) 翌朝… 支度をしながら凪が訊ねる。 「結局…何の仕事だっけ? みなの代わりって聞いたけど…」 「んと、バラエティー番組の音楽企画で…芸人さんとかタレントさん、アイドルの子もいたかな? 一緒に楽器練習して発表会するんだって。 大丈夫かなー?テレビって緊張する。 しかも何の楽器か聞いてないんだよね……」 「え、ピアノじゃねーの?」 「ピアノならまだいいんだけど…僕…金管も木管も出来ないんだよね…。ミュージシャン枠で呼ばれてるのに出来なかったらどーしよ…」 紅葉はヴァイオリン、ベースの他にピアノも弾ける。 幼稚園教諭資格にも必須だったし、ある程度の曲は弾ける。凪からしたら十分な腕前だが、本人は到底ピアニストを目指せるレベルではないといつか言っていた。体調不良のみなの代わりに出演するためどこまてのレベルを求められるのかヒヤヒヤしているようだ。 そしてテレビ業界については凪も詳しくない。 「……バラエティーだから笑いにもっていけばいいんだろうけど、わからないよな…(苦笑) とりあえず行ってみるしかない…? 何かあれば連絡して?合宿って行っても都内でしょ? 俺オフあるから会いに行くし。 あ…、近くに森林公園あるじゃん! 朝一緒に散歩とかどう?」 スマホで場所を調べた凪の提案に喜ぶ紅葉。 「わー!いいねー!」 「ってか、この企画…みなには無理だろ(笑)」 「人見知りっていうか大人数苦手だもんねー(笑) でもこの企画女性多くて…みなちゃん女の子の友達欲しかったんだって。」 「へぇー…」 同性の友達がほとんどいないみなのためにいろんな年代の女性が集まる番組の仕事をとってきたのは光輝だろうが、多分これ無理なやつ…と凪は悟っていた。逆に紅葉は適任だろう。 年上から可愛がられるタイプだし、凪という同性パートナーがいることを公にしているので若い女性と同じ画面でも反感を買うことは少ないはずだ。 男の共演者もいるので心配はあるが…気をつけるようには伝えたし、虫よけにキスマークも残している。(もちろん服を着ていたら見えない場所) 「淋しいけど、会えるかもなら良かったー! わーい!頑張るー!」 練習の合間にヴァイオリンとベースも練習しようと意気込む紅葉は大荷物だ。 「…部屋って個室だよな?」 「そーだよ! あ!大変!凪ぬいちゃん!忘れてた!」 「は?」 新しくグッズででたLinksのぬい、凪ぬいを持つ紅葉。大事そうに抱えキスでもしそうな勢いだ。 「これで一人でも寝れる!大丈夫!」 自信たっぷりに告げる紅葉がおかしくて笑う凪。 「じゃあ…本物はいーの?」 「…いるっ!」 紅葉はキスをねだってから仕事へ向かった。 〜ロケ現場〜 「三味線だぁーっ!」 用意されたのは色鮮やかなオレンジ色のジャージ(衣装)と日本の伝統楽器だった。 最近高校時代のジャージを「いい加減捨てなさい…」と凪に言われて処分した紅葉は安っぽい衣装を懐かしい着心地だと喜んだ。(凪は新しくブランド物のジャージを買ってくれたが着心地が良すぎる) 「わわ…!キレイ! カッコいい音ーっ!」 先生のお手本を聴いた紅葉は目を輝かせる。 「スゴーい!3弦!わー…重さが…ベースともヴァイオリンとも違ーう! ピッキング…じゃなくてこれは撥(ばち)だっけ? どう当てるのかな? フレットがないのはヴァイオリンに近いね。 でも太さはベース寄り…? C、G、A…あー…なるほど…! あはは…!何これ!難しいっ!」 テンション高く三味線を手にした紅葉はすぐに構造と音階を理解し、夢中になった。 先生の最低限の説明だけですぐに音階を奏でていく。 「うわー…なんて繊細なんだろう…! 日本って感じー!」 持ち前の才能と集中力でたった一度聴いた課題曲を1時間で弾けるようになってしまった。 この間、番組収録中だということは完全に忘れていた。 「あ…っ!足が…っ!痺れた…っ! 先生ー?…忙しい、ね? これ(楽譜)見ていいですか?」 独特な譜面を眺め、自分でタブレットを開き調べながら学ぶ…。 さらに練習と研究を重ねて手元を見ずに二曲弾けるようになり、 一番良い音の出し方もなんとなくコツも掴めてきた紅葉はこれベースと合わせられないかなと曲を考えつつ、コメント撮りをし、周りを見渡す。 …苦戦している仲間たちに教えていくことになった。 「あの…、譜面は見なくても大丈夫! 読めなくていいんだよー! コツ?うんと…頭の中で音階を描きながらリズムを乗せて弾く… ……あ、じゃあ別々にやろうかな?」 さすがに覚えたての楽器を教えるのはハードルが高くて落ち込む紅葉。 言葉(日本語)に表すのも難しいが、なんていうか根本的な違いを実感していた。そして改めてLinksのレベルの高さを実感する。 先月の合宿中も他のバンドの練習を見て感じたが、Linksの練習はかなりのハイレベルで濃厚だ。 LIT Jはベテランだけあって、もうバンドとしての合わせ方が出来上がっている。 個々のレベルも高いのでバンド練習は息を合わせながら曲を完成させたり、確認作業という印象が強い。それで曲が出来るんだからホントにスゴいのだが… でもLinksは基礎から追い込むし、一生世に出ない課題曲もコピーも即興もバンバンやる。 見学にきた後輩たちがドン引くくらいの練習。 曲聴いて、そのまますぐ合わせて、録音、確認、またすぐ合わせる…ここでダメなとこをトコトン詰める。 鬼に化けるリーダー(光輝)が目の前で「今っ!違う!」「3連符を殺す気かー!」「そんなんじゃソロ弾かせられないよ?!」って怒鳴るのが日常で…とにかく血の滲む努力の末にドラム、ベース、ギターの掛け合いやピアノやヴァイオリンの重なり、美しいメロディーがのってLinksの世界観が完成している。 後輩たちのバンドはそこまでの練習はしてなくてもみんなプロを目指して練習への熱量は真剣だ。 もちろん、音大時代の仲間たちも。 「…幸運なんだな。 とりあえず今日ここに光輝くんいなくて良かった…」 『お前らそんな演奏人に聴かせられるレベルじゃないだろー!』と叫ぶ姿が目に浮かぶ。 もちろん、今回は多くの人がミュージシャンじゃないのでこのレベルの違いや音楽への本気度というか違和感を感じるのは当たり前なのだが、改めて同じ熱量で音楽に向き合える仲間がいることに感謝する紅葉。

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