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第4話

 みーんみんみんみー・・・・・・。  じっとしているだけでも汗ばむ暑さだ。篤郎は額から伝う汗を拭った。きらりと光る青空に、目を細める。  三和土で靴を脱いで家に上がると、母が庭で水を撒いていた。濡れた木々の緑がキラキラときらめく。リビングからテレビの音が漏れ聞こえていた。篤郎はキッチンで冷蔵庫を開けると、二リットルのミネラルウォーターに直接口をつけた。そのとき、母が縁側から家に上がってきた。手には、切ったばかりのピンク色の蔓バラが握られている。 「あら、帰ってたの?」 「うん、おはよう」 「おはようって、もう昼じゃない」  母は呆れた声を出しながら、篤郎の手にあるペットボトルに目を止めた。 「もう、直飲みは止めなさいって言っているでしょう。あのねえ、直接口をつけると中に菌が入って・・・・・・」 「あー、はいはい」  母の小言が始まりそうな気配を感じて、篤郎はペットボトルのキャップを閉めると、バスルームへ逃げた。海水でべたついた身体をシャワーで洗い流し、濡れた身体をバスタオルで拭う。  篤郎の身長は170センチそこそこといったところだが、顔が小さいため、もっと大きく見られる。筋肉質な細身の身体は、サーフィンをしていることもあって無駄がない。内面を写し取ったような気の強そうな瞳、あっさりとした純和風の顔立ち。左耳のシンプルなピアスと趣味で作った皮のブレスレットは、いまや篤郎の身体の一部のように馴染んでいる。篤郎は海水で色の抜けた髪を指でつかむと、洗面所の鏡に向かってじいっと目を眇めた。  だいぶ伸びてきたし、そろそろ切りにいくかな。  そのとき、やけに美しい容姿をしたひとりの男の姿が浮かんで、篤郎は顔をしかめた。  くそっ。せっかく考えないようにしていたのに。

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