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第29話

「そうですか。日高くんにとって宇野くんは家族みたいなものなのですね」 「そうそれ。血の繋がりなんて、正直クソみたいなもんだと思ってたが、もし俺に良心なんてものがあったとしたら、コイツがそうかな」  篤郎は俯いた。顔も上げられない篤郎の前で、何も知らない門倉と源の話は進んでゆく。  源は篤郎の気持ちを知っている。はっきりと伝えたことはないが、それに近いことは何度も言っている。門倉との会話にかこつけて、源は篤郎に対して牽制しているのだとわかりたくもないのにわかってしまった。  はっきり好きだと言えばよかったのだろうか。俺のことを好きになってほしいと。いまある関係が壊れるのを恐れて、逃げたのは自分だった。  自業自得、という言葉が浮かんだ。胸の奥は鉛を飲んだように苦しい。涙が滲みそうになって、篤郎は自分を嘲笑った。  ――この場から逃げ出してしまいたい。  篤郎は日下のいるほうを見られなかった。ザマアミロと思われる分にはまだましだが、万が一その視線に少しでも自分への同情が含まれていたら居たたまれない。 「すみません、ちょっと……」  日下が少し離れた場所で携帯を取り出した。着信音は聞こえなかったが、どこからか電話が入ったらしい。同じ室内、聞こうとしていなくても自然と会話が耳に入ってしまう。 「ええ、はい。日下透は私の甥ですが・・・・・・? えっ! 事故ってどんな!? それで、透は無事なんですか!?」  事故という物騒な響きに、篤郎は息を飲んだ。門倉と源も会話を止め、何事かと視線を日下のほうへ向ける。 「甥ごさんて確かいま大学生で、日下くんの家に下宿してるんですよね」  源に耳打ちする門倉の声が聞こえた。 「……ええ、はい……」  通話相手に受け答えする日下の顔は、いまや紙のように白かった。いつでもどんな場面でも涼しげなポーカーフェイスを崩さない男が、いまにもその場に崩れ落ちそうになっている。そのとき源が立ち上がると、茫然とする日下の手から携帯を奪った。反対側の手はその身体を支えるように、日下の肩に回される。

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