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第46話

 源の横をすり抜けるように家の中に入った篤郎は、その惨状を見て言葉を失った。まず目に入ったのはここ最近の食生活が窺えるようなカップラーメンや弁当の空容器で、床には源が破いたらしい反故紙の残骸が散らばっていた。篤郎の視線から隠すように、源は反故紙をかき集めると、「ちょっと忙しくてな」と、ゴミ箱に捨てた。 「なんで……」  大げさかもしれないが、源にとっての絵とは、彼そのものだ。それをこれまで誰よりも近くで見てきた篤郎は知っている。だから日下から源がスランプだと聞いても、篤郎は信じられなかった。源に限ってそんなことはないと思った。けれど、ビリビリに破り棄てられたスケッチを目にした瞬間、まるで源の荒れた心の中が見えるようで、篤郎の胸はぎゅっと痛んだ。  何か飲むか、と源が台所へ向かう。冷蔵庫を開けたが目当てのものがなかったのか、肩をすくめて篤郎を振り返った。 「悪い、あつ……」 「さっきそこで日下に会ったんだ。夏くらいから、源が絵を描けていない、スランプだって」  篤郎の言葉に、源は一瞬だけよけいなことを、とでもいうかのように顔をしかめた。が、すぐに普段通りの笑みを浮かべた。 「誰にだって調子が悪いときくらいあるだろう」 「あるけど、俺が知る限りこれまで一度だって源が描けなかったときはない」 「そりゃあ、あつが俺のすべてを知っているわけじゃないさ」 「でも……っ」  それ以上反論する言葉が見つからず、篤郎は唇を噛みしめて俯いた。  確かに知らない。篤郎が知るのは源のほんの一部だ。でも、篤郎はもっと知りたいと思っている。そうさせてくれないのは源だ。

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