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第45話

 頬を切る風が痛いほどだった。  いくら考えても、篤郎自身は門倉や日下が言うように、自分が源にそれほど大きな影響を与えているとは思えなかった。でも仮にそうならば、彼らの言うようにたとえほんの僅かでも、自分の存在が源にとっての救いになれているのなら、自分にできることが何かあるのではないか。  ーーあつは自分の家族のようなものだから。  源の言葉が甦り、胸が痛む。気持ちを受け入れてもらえないのは悲しい。篤郎が源に抱く感情は、恋情以外の何物でもないからだ。けれど源が苦しんでいるというのなら、たとえそれがどんなかたちでも力になってあげたかった。自らの失恋の痛みなど、この際二の次だ。 そのときの篤郎の走行スピードは、おそらく過去最速だったに違いない。 「源! いるんだろ! 出てこいよ、源!」  玄関の明かりが消えた隣家のドアを、篤郎は構わず叩いた。やがて内側の明かりが灯り、開いたドアから源の顔を見た瞬間、篤郎は日下の言葉が嘘ではないことを知った。  何日も禄に寝てないような疲れた顔、落ち窪んだ瞳、目立つ無精ひげ。源は篤郎を見て一瞬驚いた顔をすると、すぐに取り繕ったような笑みをへらりと浮かべた。 「あつー、どうした? 久しぶりだなあ。夏以来か? 元気だったか?」  源は玄関の外に出てくると、さりげなくドアを閉め、篤郎を家の中に入れないようにした。 「……誰かきてんの?」  篤郎は眉を顰めた。思い浮かぶのは、遠い昔、源の家ですれ違った男たちの姿だった。日下の言葉はやはり見当違いで、誰か男でも連れ込んでいるのかと思った。篤郎の問いに、源は困ったような顔をすると、後ろに結わいた髪をがしがし掻いた。 「……そういうわけじゃないんだが、最近忙しくて散らかっててなあ」 「別にいい。源の家が散らかってようが気にしない」

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