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第48話

 本気でわかっていない、源のポカンとした間抜け面がうらめしかった。 「そうだよ! 源のせいだ!」  本当は、源のせいじゃないことくらいわかっていた。篤郎が勝手に源を好きになっただけだ。同じ気持ちを返せなかったからといって、それは源のせいなんかじゃない。でも、苦しい。苦しくて、堪らない。 「……源が、俺のこと好きじゃなくても、仕方ないと思ってた」  どうしようもないのだと、諦めようとした。 「あつ……?」  ぽろぽろと涙が零れ落ちる。篤郎はそれを手の甲で乱暴に拭った。 「……たとえ家族としてでも、源が俺を必要としてくれるなら、それでいいと思ったんだ」  あの源が、めったに他人を信じることができない源が、自分を必要としてくれるなら。結局それすらも篤郎の独りよがりにすぎなかったけれど。 「あつは俺の家族じゃないよ。そんなこと思ったこともない」  ひやりと氷のような声が聞こえて、篤郎はハッとなった。篤郎を見つめる源の口元は笑みのかたちを作っていたけれど、その瞳の奥はすべてを諦めたように乾いていた。 「源……っ」  さっきまで腹を立てていたことも忘れて、篤郎は源の両腕を掴んだ。そんな篤郎を見て、源がほほ笑む。 「俺にとって、あつは特別だから。あつ以外の人間はどうでもいい」 「だったらどうして……!」  篤郎はぐしゃりと顔を歪めた。 「なんで何も言ってくれないんだ! そりゃあ、俺に言ったって何も解決できないことぐらいわかってるよ! でも、源が苦しんでいるとき、話を聞くぐらいはできるだろ? それもできないくらい、俺は頼りないのかよ! 源はのらりくらりと躱すばかりで、肝心なこと、俺には何も言ってくれない。心配もさせてくれない。……は、源にとって俺がそういう対象じゃないことぐらいわかってるよ。でも、少しでも信頼してくれるっていうなら、大事に思ってくれるなら、なんで何も言ってくれないんだよ! それの何が特別なんだよ!」  これまで堪えていた気持ちが堰を切ったようにあふれ出す。もう嫌だと思った。自分だけが源を好きなのも。源の一挙一動に振り回されるのも。自分ばかりがばかみたいだ。

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