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第53話

「えーと、この間は悪かったな……」  スランプから脱却した源が個展用の絵を無事に花園画廊に納めてから三日後、篤郎はやや気まずそうな顔の源と向き合っていた。というのも、絵を完成させたと同時に、源が倒れたのだ。原因は睡眠不足と栄養失調だった。スランプに陥る前から、すでにろくな睡眠と食事をとっていなかったと言うのだから、ぶっ倒れても仕方がない。救急車で運ばれた源は点滴を打たれ、その日は強制的に入院させられることになった。呆れて言葉もないとはこのことだ。 「で、具合はもういいのか」  心配させられた分、冷たくなる篤郎の言葉に、源は「あ、ああ。もう全然! すっかり!」と頷いた。まるでぴんと張られた透明な耳と、ぶんぶん振られた尻尾が見えるようで、篤郎は目を細めた。 「ふーん……」  源が、じりっと篤郎ににじり寄った。場所は源の寝室の、布団の上だ。そう、篤郎たちは先日源によって中途半端に放り出されてしまった行為の、仕切り直しをしているのだった。 「あつ」  じっと見つめられて、篤郎はどきっとした。ほんの一瞬だけ怯んだ気持ちを見透かされたように、源は首を傾げると、首を竦めた篤郎にチュッとキスをした。 「キスしていいか?」 「……訊く前からしてるくせに」

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