1 / 8
プロローグ
トイレから出てきた穂 の顔は神妙な面持ちそのものだった。
片手には尿中に含まれるhCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)を調べるためのキット、所謂妊娠検査キットを握りしめている。
「はぁ…また陰性だった」
穂はため息まじりに呟くと、ポケットからのろのろとスマホを取り出す。
そして、見慣れたキットをカメラにおさめた。
『○月○日 今日の結果です』
いつものように簡素な結果報告だけを送ろうとして思いとどまる。
逡巡の後、
『不甲斐なくてすみません』
という一言添えて相手にメッセージを送信した。
すると数秒も経たないうちに、相手からメッセージが届く。
穂は恐る恐るメッセージを開いた。
すると、そこには『来週また行くよ』の一言。
その何気ないただの普通の一文に穂の肌は粟立ち、下腹の底に甘い疼きを感じてしまったのだった。
ともだちにシェアしよう!