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星は月を見る
先輩は月のような人だ。
どんなに手を伸ばしても、
絶対に届かない。
月から地球を眺めて、もしオレがそこにいたとしても、月はオレに絶対気付かない。
こんなに沢山の巫女が月を愛し、祈りを捧げているのに、巫女でも神官でも人ですらないオレに見向きもする訳がない。
だからオレは安心して月に焦がれることが出来た。
月である先輩を好きになれたんだ。
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「天河星影 天河星影です」
「月村和泉 だよ。よろしくね」
少し、父さんに似ていると思った。
微笑った顔が、ほんの少しだけ。
先輩のポケットの携帯が鳴りだす。
先輩は画面を見ると、ちょっと眉をひそめて言った。
「ごめん。ちょっと待って?」
オレが頷くと、反対側に歩きながら電話に出た。
柔らかな声で電話の相手と話す。彼女とらしい会話が始まった。
オレは大きなバックを下に置くと、周りを見まわす。
二段のベッド。小さなキッチンにユニットバス。
フローリングの床にはラグが敷いてあって、小さなちゃぶ台のようなテーブルが置いてある。
二つの机。窓側の机には何もない。ベッド側の机には先輩の私物がある。ノートパソコン、教科書、CDが数枚。何が趣味なのか、先輩を示すものはない。
間には共有の本棚。上の方には鉱物の標本みたいなものが並べてある。キラキラ光る小さな石。ふらりと近づくとそれをのぞきこむ。
透明に金の針のようなものの入った石。
灰色の石に赤い結晶がくっついた石。
紫色の傘から白い軸の生えたきのこみたいな石。
透明な水晶の沢山の生えた石には、茶色と黒のしまのついた念珠ブレスが乗っている。
どれも凄く綺麗だ。
「ごめん」
後ろから声をかけられて、びくっとする。
「あ……勝手に、すいません」
オレは頭を下げた。
「いや。石とか好き?」
「いえ。でも綺麗ですよね」
「そっか」
ちょっと長めの癖のある茶色い前髪が揺れる。父さんに似た顔が薄く微笑む。
「机は窓側。棚は下のほう。ベッドは上段。クローゼットも窓側の扉。掃除は一緒に2週間に一回。オレはあんま散らかさないけど、散らかしたければ自分のスペースでどうぞ。
どっか変えて欲しいとこある?」
「いえ」
「あまかわって、漢字はどう書くの?」
「天地の天にさんずいの河です。夜空の星に風景の景の方の影」
「やっぱりアマゾナイトなんだ」
「は?」
「いや、こっちの話。
寮にようこそ。一年間、よろしくね」
差し出された先輩の少し冷たい手を握る。
オレはにっこりと微笑んだ。
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