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スポデイ頑張る編 1 帰ったらうがい手洗い、です!

 役所の仕事って、もっとこう……淡々としているというか、日々、書類の受け取りして、確認してハンコ押して、ハンコ押してもらって、って思ってる人が多いんじゃないだろうか。  平凡。  平坦。  そんな感じを想像しているんじゃないだろうか。  そんなことは決してないんだと声を大にして――。 「あ、最上さん、資料、配布完了です!」 「! ありがとう」 「失礼します!」  くるりと踵を返し、正嗣が自席に座るのを見届けて、コホン、と一つ、咳払いをした。 「すみません! 分布図! 画面表示完了です!」 「ありがとう」  正嗣と同期で入った女性職員がキリリと表情引き締め、プロジェクターからスクリーンに照らし出された、市民体育館を中心にした市内地図画像を見上げた。 「あらあら、私の頭がこれだと邪魔になっちゃうわね」 「……すみません」  ちょっと橋本さんののんびりとした口調に釣られそうになったけれど、そこはしっかり気を引き締めて。 「えー、それでは」  ビシッと、しなければ。  何せ、まさかの、俺が! 今年のっ!  あ、どうしよう。  考えたらちょっと緊張してきた。  こういうの、そもそもは苦手なんだ。  けれど、でも、ちょっと、その。 「最上さん!」 「!」  頑張って、と声に出さず、大きく口元を動かして応援してくれてる人がいる。だから。  はい。頑張ります。  大きく頷いて、今、集まってくれた子育て促進課と広報、ほか、各課より選出された会議参加者のみなさんをぐるりと見渡した。  大きく深呼吸だ。  議事進行の仕方なら、昨日のうちにまとめておいた。  頑張ろう。 「それでは、みなさん、閉館後ですので、手短に進めていこうと思います」  やってみないかと主任に言われて、やってみますって言えたのだから。  今までの俺だったら、そんな大役無理ですって断っていた。そもそも目立つことなんて怖くてできなかったし。  うん。  怖がりだから。  怖いことからは逃げてしまっていた。  けれど、今は克服したいって思ってる。怖いと尻込みしていたことを、怖くなくなったら、その先に、感動だったりワクワクだったり、楽しいって感じることがあるかもしれないって、彼に教えてもらったから。 「それでは!」  だから、頑張らなくちゃ。 「市主催、スポーツデイ! の、詳細に関して煮詰めていこうと! 思いっ、ますっ!」  役所の仕事って。  平坦で平凡、そう思っている人、多いのではないでしょうか。  いえいえ、とんでもありません。  市役所勤めの人はハンコを押すことばかりを生業にしているわけではないんですよ。むしろ季節ごとに色々とやることがあるんです、と声を大にして言っておきたい。 「よろしくお願いします!」  だから、つい、司会進行を任された俺の声も「大」になってしまった。 「はぁ……疲れた……」  精も根も尽き果てた、ってこういうことを言うのだろうな。あー、でもまだ始まってもいないんだった。  今日のはまだ会議なだけで、本番でもなんでもないんだった。 「はぁ、ぁー」  溜め息を大きく吐いて。  ちょっとだらしがないけれど、帰宅してすぐ、スラックスにワイシャツ、うがい手洗いもまだだけれどソファに倒れ込むように飛び込んだ。  とても疲れた。とーっても。 「お疲れ様でした」 「!」  そんな俺の心中が読めるみたいに正嗣がソファの肘置きに腰を下ろしながら、そっと俺の頬に冷たい缶ビールで触れた。 「お疲れ様ビール、です」  やたらと冷たい。  きっと疲れと一緒にミーティングの議事進行を任された興奮が冷めずに残っていたのだろう。頬に触れた冷たさがとても心地良い。 「……ちょっと、議事、つっかえてしまった」 「そうですか? 無駄なくスムーズにできてましたよ?」  そうか? 言葉につっかえるし、声、ひっくり返りそうになるし。なんだか喉が渇きすぎて、水、一気飲みしてしまったし。 「みんなの意見にちゃんと耳を傾けて、一生懸命に接してくれるから、嬉しいってみんな思ったと思うし」  そう、か? だって、せっかく意見を出してくれたんだ。ちゃんと聞きたいだろ。その全部をイベントに反映できるかはわからないけど。でも、できるだけ、織り込んでいきたいって。 「俺、途中で荘司が頑張って議事やってるとこ見てて、感動しちゃってました」  そう、なら、よかった。 「かっこよかったです」 「!」  スポーツデイ。市民の健康促進の一環として市で開催されるイベントの実行役員に抜擢してもらえた。  きっと、かっこよくなんてちっともないと思う。だって、議事進行なんて初めてなんだから。辿々しかったし。 「荘司って、あれですよね?」 「?」 「なんか、あの時もそうだったなぁって」  なんだ? あの時って。 「花火大会の準備の時」 「……」 「すっごい綺麗な人が首にタオル巻きつけて、一生懸命椅子並べてるの見て、思ったんです」  あれは、毎年のイベントでもう手慣れたものだから、テキパキ動けるんだ。とにかく椅子を並べていくだけ。暑いし、汗だくになるけれど、でも、不器用な俺でもできるから。 「あー、この人、素敵だなぁって」 「!」 「いつでもなんでも一生懸命なとこ、大好きです」  違う。全然、なんだ。  ただ、正嗣が褒めてくれるから、支えてくれるから、頑張りたいなって思うんだ。  今回のだってそう。  いつだって、正嗣が――。 「最高です」 「!」  いてくれるから。 「あ、りがと、ぅ」 「! あー、もう! まだご飯も作ってないし、うがい手洗いもしてないのにいいい! そんな可愛い顔しないでください」 「! し、してない!」 「しました。ほら、うがい手洗いして」 「!」 「早くキス、しましょう」 「!」  正嗣がいてくれたら、俺はきっとなんだって頑張れるって思うんだ。 ――

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