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花咲月くん
「俺は春海 くんのこと・・・好きなんだけどなぁ~・・・」
そう言った花咲月 さんの顔は俺の顔のすぐ横にあって俺と花咲月 さんの身体はピッタリとくっついていた。
そう・・・。
俺は花咲月 さんに抱きしめられたのだ・・・。
「えっ? あっ!? や、花咲月 ・・・さん!?」
俺は花咲月 さんを抱きしめ返すことも出来ず、花咲月 さんの腕の中で沸き上がっていた。
なんだ・・・この状況・・・。
なんだ・・・コレ・・・。
本当になんだコレぇ!?
「春海 くんは俺のこと・・・嫌い?」
やめてぇー!!
耳元でそのイケボでちょい官能的に囁かないでぇー!!
めっちゃ犯されてる感あるから!!
大体それ、俺にじゃなくて剛志 さんに・・・やっぱり剛志 さんは駄目だっ!!
剛志 さんだけはちょっと許せない!!
「で? 春海 くんの答えは?」
花咲月 さんは俺をきつく抱きしめ、より耳元に近づき、更にイケボになって官能的に囁いた。
「うっ・・・あ・・・そ、それ・・・はっ・・・」
俺は変な声を出しつつ、クラクラしだしていた。
目の前は霞んでチカチカするし、心臓は破裂しそうなほど高鳴っていた。
それは『俺・・・死ぬのかな?』って思うほどに・・・。
「・・・ふっ・・・ははははっ!」
俺の耳を唐突に突いた花咲月 さんのその笑い声は本当に快活で爽やかでハッとさせられた。
それはまるで冷たい水を頭からぶっかけられたかのようなそんな感覚だった。
「ごめん。悪ふざけが過ぎたね」
花咲月 さんは笑いながらそう言うと俺の頭を数回ポンポンとして俺をあっさりと抱き離した。
俺はそれにただ瞬くことしかできなかった。
花咲月 さんはそんな俺にニコリと微笑み掛けるとその場に腰を下ろし、落ち着いた綺麗なイケボで『おいで』と呟き、俺はそれに素直に従った。
~・~・~・~
「ごめん。驚いた?」
俺が隣に座ったのを認めると花咲月 さんはそう言ってまたニコリと微笑み、俺はそれにただ頷いて火照っている顔を隠したくて体育座りをした膝の間にその顔をそっと埋め込んでいた。
ああ・・・恥ずかしい・・・。
「知ってたよ」
花咲月 さんはそう言うとまた俺の頭をポンポンとしてクスリと笑った。
花咲月 さんは何を知っていたのだろう?
「知ってた。春海 くんが変な意味で俺を『好き』って言ったんじゃないって」
「ッ!!」
花咲月 さんのその言葉に俺の身体はボッと熱くなった。
変な意味でないことを知っていたなら何で花咲月 さんはあんなことを?
「俺、たぶんSなんだよね。ごめん」
あ・・・はい・・・。
そうですか・・・。
俺はクラクラしている頭を膝の間から出し、チラリと花咲月 さんにその視線を向けてみた。
視線を向けてみた花咲月 さんは真っ直ぐに海を見つめていた。
海を見つめる花咲月 さんのその横顔は本当に綺麗でカッコよかった。
「・・・花咲月 さん・・・今、幾つです?」
俺の問いに花咲月 さんは『ん?』と声を漏らすと海に向けていたその視線をわざわざ俺へと向け直してくれた。
それに俺はなぜだかドキリとさせられた。
「・・・19・・・だけど?」
「え!? 1つ違い!? 俺、18なんです!」
俺はその事実に目を丸くした。
花咲月 さんはもっと年上だと思っていたからだ。
それが1つ違いと聞いて一気に親近感が沸いたのは言うまでもないことだ。
だが、俺のその反応に花咲月 さんはただニコリと微笑んだだけだった。
俺はそれがちょっと寂しかった。
もっと違う反応が欲しかった。
「俺と二人の時はタメでいいよ。俺もこれからは春海 くんのこと呼び捨てで呼ばせてもらうから」
花咲月 さんのその言葉に俺は大きく頷いて自分でもわかるくらいの満面の笑みを浮かべていた。
「けれど、まさかあんなに驚くとはね」
そう言ってイタズラっぽく笑んだ花咲月 さんは本当に妖艶だった。
「・・・意地悪」
俺はそう呟いて肺いっぱいに空気を吸い込んだ。
吸い込んだその空気は仄かに潮の匂いのする暖かい春のもので心地よかった。
「あの・・・じゃあ馴れ馴れしく話します。すみません。・・・花咲月 さんは知ってんのかな? その・・・剛志 さんのこと・・・」
俺はおずおずとそう訊ねてまた顔を熱くした。
俺の問いに花咲月 さんは淡く微笑むと『まあね』と言って春の海風に乱れたその長めの前髪をそっと後ろへと掻き上げた。
花咲月 さんのその動作は本当に色っぽいスマートなものだった。
もし、俺が同じ動作をしたとしてもそれはきっと、ぎこちないものになるはずだ。
けれど、花咲月 さんはそれをサラッとした動きでこなす。
まるで呼吸でもするかのように簡単に・・・。
「・・・『花咲月 さん』って言いにくくない? 『くん』でいいよ」
「え? それなら下の名前で『アキト』って呼ぶよ」
「それは駄目」
「え? 何で?」
俺はそのあまりにも意外な返答にキョトンとさせられた。
「秘密。とりあえず俺のことは『ヤヨイくん』って呼んで」
「わかったよ。花咲月 くん」
俺がそう言うと花咲月 くんはふっと微笑んだ。
ああ・・・本当に花咲月 くんはチートだ。
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