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甘い時間③
大学が再開されて約二週間。
大学に戻ってきた生徒は半分くらいで残りは辞めてしまったから校内の人は疎らだ。
今日の講義を一緒に取っているのは俺の数少ないもう一人の友人の徳永弘明だ。
広々した講堂の中で隣同士に座って講義そっちのけで雑談をしている。
「退屈な上にこう人がいないんじゃ、居眠りも出来ねえな。」
「それじゃ講義を聴きに来た意味ないだろ。」
「俺さー、地球最後だーって散財しちゃって金に困ってんだよ。なんかいいバイトねえかなー。」
!
「………………あるよ。…1回だけだけど、10分1万円なんてどうかな?」
「なんだよそれ、やばいやつなんじゃないの?どんな仕事なんだよ。」
「金は俺が払うんだけど…………」
「うん」
「その………………………と…、」
「うん?」
「………徳永の尻を俺に見せてくれないか。」
「はあっ?!尻だと?!」
「うおっほんっ!! そこうるさいぞ。出ていくかね。」
「あ、すみません。」
徳永は俺から5席ほど距離を開けて逃げてった。
ああ、やっちまったーー。数少ない友人を減らしちまった。
尻だからな。見ず知らずの他人に見せてくれって言って見せてもらえる可能性は低い。
あと尻を見せてくれそうな奴って知り合いで誰かいないかな…。
退屈な講義が終わって、次の講義まで少し時間がある。
学食に行って何か食べて時間を潰そうと立ち上がると徳永に呼び止められた。
「………篠崎、来い話がある。」
ああ、もう二度と近寄るなとか言われんのかな。
まさかさっきの件の口止め料として金払えとか言われるとか?
トイレに着くと徳永は掃除用具入れから「清掃中」の黄色い立て看板を出して人払いをする。
ますますヤバイ気がしてきた。
背中に汗がつーっと流れる。
「さっきの話、本気なのか?」
「へ?」
「ケツ……見せるだけで1万円くれるって」
「あ、その………」
どう答えたらいいんだ?!
なんて答えれば正解なんだ?!
「嘘…俺をからかったのか?」
「違う、本当に尻を見せてもらいたいんだ。徳永尻を見せてくれ…」
カツン…とトイレのタイルを硬いものがあたる音が出入り口の方から聞こえ、驚いて視線を向ける。
「………こんな看板立てて二人でナニしてんのかな?」
「「西野っ!!」」
「ふふふ、来ちゃった♡」
大学にいないはずの清貴が怒りに声を震わせて立っていた。
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