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雨の多いこの時期は空気が湿気っていて、常に気だるい感じがする。正也(まさや)は、昼過ぎから倦怠感とこめかみの鈍い痛みがあった。 掃除当番を終えて教室を出ると、正也は階段を下りていった。下駄箱のところまでやってくると、自然とある人物を目で探してしまう。 ───いた。 やっぱりいた、と正也は思う。 下駄箱の陰に隠れるように立っている学ランの生徒。彼は正也に気がつくと、何も言わずに人懐っこく笑ってみせた。 正也が「傘は?」と聞くと、彼は「忘れた」と答えた。 (みつる)はいつもそうで、雨の日には決まって傘を忘れてくる。だから、正也は満にこう訊ねる。 「…傘、入る?」 「うん」 これが、雨の日の二人の日常だった。 正門から出た二人は、並んで歩いた。 満を傘に入れてやるせいで、正也の左肩はいつも少しだけ濡れていた。 正也と満に大した接点はなく、クラスも違う。本当にただ一緒に帰るだけの間柄だった。 ただ、雨の日は必ず満が玄関にいて、正也はつい毎回声をかけてしまうのだった。 「…でさ、その時に先生が来て…」 「はは、バレるじゃん、それ」 「そう。見つかっちゃってさ…」 会話は他愛ないもので、互いに相手に踏み込むことはしなかった。いつも、笑って流せるようなくだらない話をしながら帰るのだ。 信号を渡って分かれ道に来ると、満は言った。 「それじゃ。俺、こっちだから…」 「ああ、うん。またな」 「…またね」 そう言って小さく手を振った満は、雨の中を走っていった。

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