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第67話

 「良かったなぁ、死ななくて。お前の体力でヤったら普通死ぬからね、コイツとっても丈夫で良かったね」  ドクターの声がした。    すすり泣きの声がする。  誰が泣いてるんだ。  死にかけてんのは。  俺だな。     OK。  ヤり殺されかけた。    それもわかる。    目が覚めたら俺の家だった。   どれくらい意識を失ってたんだ。  「俺の携帯は?」  俺は呻いた。       おおっ、すげぇ声になってる。  喉がいたい。   点滴・・・?  俺は点滴打たれてんのか。  「それが最初の一言?初夜で殺されかけた花嫁さんの言葉じゃないね」  ドクターは呆れながら、携帯を渡してくれた。  俺はメッセージをチェックする。  フワはちゃんとメッセージをいれてる。  俺は、「頑張れ」そうメッセージとスタンプを送る。  「他の男へのメッセージか。初夜明けて花嫁さんが最初にするのが」  ドクターは意地悪っぽく言う。  俺と男にたまにはやり返したいのだろう。     好きに使ってるからな、たまにはさせてやるべきだ。  「他の男じゃない。フワは家族だ、それに花嫁じゃないぞ、俺は」  俺はでもそこは言っておく。  フワは家族。  ここは、男も了承してもらわないと。  それに花嫁じゃねーよ。  ドクターは半笑いになった。  俺は起き上がれない。  男が慌てて抱えて起こしてくれる。  これは数日は寝たきりだな。  覚悟した。  バイト先と内藤に連絡いれなければ。  俺は男に抱えられながらメッセージを打つ。  男の肩に頭をのせて甘えてみた。  悪くなかった。  男は泣いてる。  やりすぎたと思っているのた。    「気にすんな」  俺は言ってやった。  ドクターはプリプリ怒りながら出て行った。  内藤もいないのにここにいてもドクターには何の得もないからだ。  内藤がいる時はあきらかに態度が変わる。  だが、ドクター。  俺は許さないよ、お前と内藤なんか。  まあ、内藤がドクターを選ぶのはない。  絶対にない。  だって。  内藤だぜ?  俺はコイツを選んでしまったけど。  俺を背中から支えるように抱きしめている男の肩に頭をのせて、俺は俺の男を見上げた。    鮮やかな炎のタトゥーに生きながら焼かれているような男を。    「愛してるよ」  俺はちゃんと言った。  男の目が泳ぐ。    困惑してるのだ。  わかってた。  「オレには・・・ソレがわからねぇ」  男は絞り出すように言った。  そうだろう。  お前は何も知らない。   俺を愛してることさえも。  「愛してるって俺に言え。わかるまで」  俺は言った。  お前はそれを知らないと。  そこから始めよう。  お前は俺を愛してる。  俺はお前を愛してる。     その意味から始めよう。  「愛してる」  たどたどしく男が言った。  まだ言葉の意味はのってない。  でもそれでいい。  俺は男の頬にむかって指を伸ばした。  俺の男に触れるために。  俺の男は。  生きながら焼かれている男は。  暖かな、普通の。  俺と同じ人間だった。  「愛してるよ」  俺はその言葉に意味をのせた。  まだ届かないとしても。   きっと。  この男はそれを受け止める。 END      

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