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内藤くんとドクター オマケのオマケ2

 帰り道。  マンションの下から内藤くんの窓を見上げる。  待ち伏せは禁止された。    でも歩道から窓を見上げるのは禁止されてない。  寝室の窓から、内藤くんの部屋の窓を眺めるのも。  たまたま向かいのマンションに住んでるだけだ。  内藤くんには秘密にしないと引っ越しさせられるけど。    内藤くん。  内藤くん。  どんどん好きになる。  だって内藤くん、何にもいらないんだもの。  内藤くん、本当に欲しいものは全部持ってるんだから。  内藤くんはあのクソガキと自転車で出かけるのと、本を読んでる時と、ネットで囲碁している時と、小説書いてる時が幸せで、それが全部なんだ。  内藤くんが、小さく口もとで笑ったり、尖らしたり、歪めたりして、小説を書いてるのを見てると幸せになる。  窓際の机にすわって。  それを双眼鏡で見てる    実は内藤くんがこっそり小説を投稿しているサイトは知ってて、更新の度にいいねを押している。  内藤くんの小説は内藤くんそのもので、綺麗で閉じていて、広かった。  詐欺師は芸術家だ。  価値はわかる。  でも、売れないだろうな、とも。  実際読み手は少ない。  でも、内藤くんは気にしない。  内藤くんは自分のために書いてるのだ。  内藤くんは綺麗。   綺麗すぎる。  ドクターは自分も含めて欲深い世界について良く知っている。  人間は欲望のためなら人間だって殺すのだ。  だけど。   内藤くんは綺麗だ。  今度内藤くんがいるタイミングを見計らってくそガキの家に行こう。  何か理由をつけて。  冷たい目でみつめられたい  どうせ近い内、あの男がまたくだらない命令をしてくるだろう、何が、本当にくだらない命令を。  どうせ逆らえないなら、内藤くんに少しでも会えるようにしてもいい。  あのガキがまたはじめるだろうくだらない計画に乗ってやってもいい。  内藤くんに会えるなら。  囲碁を覚えよう。  内藤くんとネットで対戦するんだ。  きっと内藤くんは、囲碁でもその綺麗な世界を見せてくれるだろう。   チャットで話せるかもしれない。  絶対に僕だとバレたらだめだけど。  ドクターはあきらめて、内藤くんの窓の下から離れた。  ドクターは部屋にもどり、閉じた内藤くんの窓をみながら、内藤君の録音した声を聞きながら、内藤君を思って自慰をする。  「内藤君、内藤君、どうやったら僕のこと好きになってくれるの?」  そう言いながら。  詐欺師の初恋は。  とてもとても難しい。   おわり    

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