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第1話

寒さも段々と増してきた12月のある夜、そろそろクリスマスが近付き街を行く人並みはどこか浮足立っているように感じられる。新宿2丁目を歩く人たちは、カップルも多いかもしれない。上島圭太は一人で2丁目にたった一軒だけある男性専門のホストクラブにやってきていた。 『Club Dandyguy』は、客はゲイの男が主でありキャストももちろん男で、ゲイかバイの者が揃っている。  圭太はここにやってくるのが初めてで、迷いなく『琉季』というホストを指名した。最初から、琉季を指名するつもりだったから。本音を言えば、他のホストには今のところ興味はない。  圭太の見た目はそこそこ悪くない。超絶イケメンとまではいかないものの、昔から後輩男子のファンがいたこともあったし、時には男子やクラスメートの女子から告白されることもあった。そんな圭太がどうしても会いたいと思った琉季は、ClubDandyguyでナンバー2のホストだそうだ。 「初めまして。琉季です」 席に座り待っていると、目の前にやって来たのは眩いほどの金髪で色白、目はクリクリとした青年でなかなかに可愛らしい顔立ちをしている男だった。おまけにプロフィールを見ると身長は可愛い顔に似つかわしなく170センチを少し超えたくらい。 「あっ、は、初めまして」  現れた本物の琉季を目の前にすると、自分から勇んでやって来たもののとてつもなく緊張した。 「ご指名ありがとうございます!席よろしいですか?」 にこやかに笑んだ男は、圭太のすぐ隣に着席した。 「改めまして、琉季です!よろしくお願いします!」 「こちらこそ……」 「あはは。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。楽しくいきましょう」 「そう、ですね」 盛大に緊張をしていたものの琉季は話してみると気さくで、すっと心の中に入り込んでいけそうな感じがした。スマートに扱ってくれるし、やはり実物の琉季はカッコいいと思う。 「なんで僕を選んでくれたんですか?店の前のパネル見たとか?」  ホストクラブは、店の前にナンバー入りしているホストの写真が掲げられているケースも多く、琉季の店も同様だ。 それに店にはホストの顔写真やプロフィールが書かれた『男本』と呼ばれるメニューがある。 「いえ。タウン誌に載っていたのを見て、琉季さんに会いたくて来たんです」 「え?」  琉季は一瞬目を丸くしたがすぐに穏やかに笑んだ。 「あー、そうなんですね。嬉しいな。俺のために来てくれるなんて光栄ですよね」 「そ……そうですかね?」  何となく圭太は顔を赤くした。 「そうですよ!じゃあ、これからもっと仲良くなりましょうね!」  可愛らしい顔で艶やかに微笑まれて、圭太はドキリとする。 「えっ?あ、はい。よろしく、お願いします」 「アハハ!そんな緊張しなくてもいいですよ。リラックスして楽しみましょうよ」 「そうですね」  初めての場所だから、やはり多少は委縮してしまう。この場所に来たかったのではない。ただ、琉季そのものに会いたかっただけ。 「じゃ、出会いに乾杯!」  ウインクを受けながら、ドギマギしてお互いのビールが注がれたグラスを合わせた。  琉季は高い酒を煽ってくることもなく、ご機嫌でトークを繰り広げてくれて、ヘルプのホストも交えて圭太を楽しませてくれた。  あっという間に時間は過ぎていき、初回の客がいられる時間のリミットを迎えてしまう。 「今日はありがとうございました。楽しかったですよ」  琉季は、店の決まりで建物の外までは見送りはできないそうだが、エレベーターまで見送りをしてくれた。 「あ、、僕も楽しかったです」 「また来てくれますよね?」 「は、はい」  琉季にそんなことを言われると、どうしても顔が赤くなってしまう。今後も通うとしたら、圭太の身が持たなそうだ。  二度目とか、そんなことは考えていなかったけれど、お金が大丈夫なら来てもいいかと思える。 「良かった。待ってますから」  そう言う琉季の顔は安堵したように見えた。  エレベーターが到着し、圭太が乗り込みドアが閉まる寸前まで琉季は手を振って見送ってくれた。

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