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第34話
しかし、ほどなくして菅野が店にやってきて、またしてもしつこく言い寄り圭太を部屋のベッドに組み敷いた。
恐怖を感じてしまい、とにかく早くこの状況を逃れたい一心で、圭太は菅野に「あなたにはそういった感情を抱くことはできない。諦めてください」とはっきりと告げた。
すると、菅野は表情を一変させて敵でも見るような顔で、ベッドで怯えるように押さえつけられている圭太を見下ろした。
「こんなに俺の想いを告げても伝わらないんだな。そうか……よーく分かったよ」
菅野は圭太を抑え込んでいた手を離し、身体も圭太から避けてベッドからも降りた。
「菅野さん……」
言葉が上手く出ない。何かを言いたくても言葉にできないのだ。
「覚えておいて、ケイくん」
菅野は目キラリと光らせて、時間にもなっていないのに部屋を出ていった。
あまりにも恐怖を感じたので、せっかくの指名客だったもののスタッフに頼み菅野を出禁にしてもらった。
これで、もうあの男に会うことはないだろう。
それからは平和な日々が戻ったと思われ、菅野のことも圭太は思い出さなくなった。
そして一ヶ月ほど経った頃のある夜、圭太はバーへと出勤のために訪れた。
既に日は落ちかけていて、辺りは暗くなっており近隣の店のネオンの明かりが灯りだしている。
圭太が店に入ろうとしたら、名前を呼ばれた。しかもウリ専での名前を。
何となく聞いたことのある声だと思いつつ振り向くと、そこには忘れかけていた菅野が立っている。
「す、菅野さん……」
圭太の身体に戦慄が走った。もう2度と会うことはないと思っていた相手。
こうなると予想をしていなかったことは、迂闊だったか。
菅野の手にはナイフが握られている。
それを見てしまった圭太は、恐怖で動けなくなった。
「ど、どうしてここに……」
「君が、他のところでも働いてるって教えてくれただろ?それで、調べたんだ」
「そんな……」
ウリ専以外でも働いていることを話したのは迂闊だったと、圭太は酷く後悔した。
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