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第36話
憎しみに満ちた顔を見せ、菅野は段々と距離を詰めてくる。
手のナイフがキラリと光っている。
圭太の額には、イヤな汗が流れてきた。
「菅野さん……何で、こんなことを……」
「君が、俺を拒否したからに決まってるだろ?それ以外に何がある」
そう言う間にも、菅野は近付いてくる。逃げればいいのに、足が竦んで固まってしまい動けそうにない。
油断したら、膝から崩れ落ちそうだ。
既に目の前にまで菅野が迫ってきている。もうダメだ。
圭太は、刺されるか切り付けられるかのどちらかを覚悟していたが、緊張した空気を止める声が聞こえた。
「おい、何やってる?」
声の主は琉季だった。
「琉季さんっ」
圭太は思わず呼んでいた。彼の顔を見て、安堵感や今の状況の恐怖感など色々な感情が溢れてきて涙が出る。
琉季の声に、菅野も振り返った。
「誰?」
菅野が怪訝な顔で琉季に問う。
「俺はそいつの、王子様ってヤツ?」
その意味は、きっとホストクラブで指名しているから、圭太の王子様になっているということだろうということは圭太にも分かる。
ただ、菅野はどう受け取っただろうか。
「おう、じ?あ~ぁ、そうか。君が圭太の彼?」
「いや、付き合ってないけど」
琉季はノロノロとこちらへと近づいてくる。
「そう。じゃあ、圭太の何?」
鋭い目で琉季を睨む菅野。一体、どうして彼はこうなってしまったのだろうか。以前は優しくて紳士的で、良い人だったのに……。こうさせてしまったのは自分か。けれど、こればかりはどうしようもない。
そうだ。菅野は良い人ではあっても、それ以上にはなれない。
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