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第37話

「やめろよ、こんなこと」  こちらに近付いてきた琉季が、菅野のナイフを奪おうとした瞬間に、菅野が「うるさい!」と叫んでナイフを持った手を振り回し、それによって琉季が手を切ってしまった。 「痛って……」  琉季は顔を顰めていて、手からは血が滴っているのが見える。 「琉季さんっ!」  琉季が怪我をしてしまい、圭太の顔は蒼ざめた。 「俺にはケイしかいなかった。でも、今は憎しみしかない」 「菅野さん!他の人を傷付けるのは止めて!もう止めて欲しい、こんなこと……店の前だし、あなたに罪を犯させたくない!」  圭太は必死に訴えた。 「あぁ、悪かったね。店の迷惑になるよな。それじゃ、これから俺も死ぬから死んでくれ」  そう言うと、菅野は圭太の手首を取り人通りのない裏路地へと連れていこうとした。 すると、琉季が割って入りそれを阻止しようとした。 「おい!やめろっ!」  琉季によって菅野の手は圭太の手首から離され、琉季は菅野を殴りつけ菅野は路上に倒れる。 「琉季さん!」  琉季に暴行を働いて欲しくない。自分のせいで、琉季が罪に問われてしまうようなことだけは、なって欲しくないのだ。  琉季はこぶしから血を滴らせて、菅野を冷徹に見下ろしている。 「もう2度とこいつに近付くな。分かったか。もしまた現れたら、どうなるか分かんねぇから」  今までに聞いたことのない、竦み上がりそうな底冷えする声音だった。 琉季が怒り狂っている。自分のために。 それが分かったことだけでも、嬉しい。  菅野は立ち上がり、「くそっ!」と吐き捨てて逃げて行った。 「大丈夫?」  圭太はすぐさま琉季へと駆け寄った。まだ恐怖はあるが、それでも琉季が心配だった。 「お前は大丈夫なのかよ」  いつもの琉季の声音に、何となくホッとする。 「僕は大丈夫だよ。どこも怪我してないし。でも琉季さんは血が……」  刺された方の手で殴ったらしく、琉季の右手は血で少しぐちゃぐちゃになっていた。こんなにさせて、心が痛い。 「あぁ。こんなの大したことないって。お前が無事ならそれでいい」  琉季は事も無げに言う。 「琉季さん……あ、そうだ。店に救急箱あるから手当してって」 「いや、大丈夫だって。お前仕事だろ?」 「まだ少し時間あるし。手当させて」 「でも……」 「ね、手当させて?」  琉季は圭太に根負けして店に入っていった。 「あら。ケイちゃんその方はどなた?」  2人が店に入るなり、カウンターで用事をしていたママが声をかけてきた。 店前での騒動には、気が付かなかったようで、圭太は安堵に胸を撫でおろす。 「おはようございます!あのー、僕の友達なんですけど、怪我をしてしまったので手当させてもらってもいいですか?」 「あらあら、それは大変ね。いいわよ。救急箱出してあげるから、そこのソファーを使うといいわ」 「すみません」  しおらしく、琉季もママに頭を下げる。  圭太が琉季と共に客席のソファーに座ると、ママは棚から救急箱を持ってきてくれた。 するとママは意味深な笑みを残して「ごゆっくり」とだけ告げてまたカウンターへと戻っていった。

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