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第39話
その夜、琉季は2時間ほど飲んで帰っていった。
閉店後に後片付けをしていると、ママが声をかけてくる。
「ねぇ、ケイちゃん」
「何ですか?」
「さっきのケイちゃんのお客さん、あなたの好い人?」
「い、好い人ってなんですか?」
分かっているけれど、敢えて知らないふりをする。
「あらやだ。分からない?好きな人かってことよ」
「え、いや、それは……」
思わず顔が赤くなり、恥ずかしさのあまりしどろもどろになる。
「好きなんでしょ?彼のこと」
ママに聞かれると、なぜか否定できなくなってしまう。
圭太は観念した。
「えぇ、まぁ……」
「そう、やっぱりね。好きだって伝えたの?」
「まだ、言ってないですね」
言ったところで、どうなるものでもないだろう。瑠季は、圭太にお客の1人として接してくれているだけなのだから。
きっと、告げたとしても遂げられる想いではないのだ。
「あら、それなら伝えなくちゃ」
「でも……言っても玉砕するだけですから……」
そうだ。言って傷付くくらいなら、一人で勝手に想っている方がマシだ。
「ケイちゃんて、そんなに意気地がない子だったの?」
グサリと言われて落ち込んだものの、きっとそうなのかもしれない。ママの図星だ。
「そうですね。僕は意気地がないのかもしれません」
「このまま気持ちを中に秘めたままで、いられるの?辛いわよ」
「それでもいいんです。僕の想いはもう実ることなんてないですから」
自分で言いながら気持ちがますます沈んでいく。
「何で言い切れるの?もし差し支えなかったら、教えてくれるかしら?」
単なる興味本位からというのではなく、真摯に圭太の恋について考えてくれているようだった。
「彼は、男専門のホストで働いてるんです。僕、そこに行ってて彼を指名してるんですよね」
それを聞いて、ママは目をぱちくりとさせた。
「そうだったのね。ちょっと意外だったけど、それもあってあなた、他の仕事もするって言って頑張ってたのねぇ」
「はい。そうなんです」
「気持ち伝えちゃっても、悪くないんじゃないかしら」
「そうですかね」
まぁ確かに、どうせ通ってることからして好きだから来ているんだろうと思われているかもしれないけれど。
「そうよ。告っちゃって、彼にもっとあなたに意識を向けてもらうのよ。それでさ、彼がホスト辞める時まで一緒にいる努力してさ、晴れて彼が一般人になってからも一緒にいてもらえたら、本物よね」
確かに、そうするしかないのかもしれない。一度、きちんと想いを告げていれば、今は実らなくても、これから先どうなるかは分からない。
「そうですね。良い返事は聞けないと思いますけど、取り敢えず伝えたいと思います」
圭太が決意表明をすると、ママは「頑張ってね」と微笑んでくれた。
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