45 / 63
第45話
月日が流れ、翌年の6月も半ばになった。
圭太は無資格から介護の世界に飛び込み、今では資格も取得しスタッフの皆からも頼りにされている。
女性が多い職場だから、男性である圭太は何かと体力的にも頼まれることが多いのだ。
地元に帰ってきてから、余計なことを考える間もなく、必死に日々を過ごしてきた。
母親を支えることと仕事を両立するのは、案外大変なもの。
それでも、心機一転して頑張れている自分が好きだ。
琉季のことも、思い出さなくなっていた。それなのに……。
ある日の午後、仕事の休憩時間に携帯電話が鳴り、圭太が画面に目を落とすとそこには”琉季さん”と表示されていた。
『あっ……』
何となく、ブロックできなかった琉季の連絡先。
携帯電話の通知をタップしてみると、文章は何もなくただ1つだけ写真が添付されていた。
「琉季さん……」
昨年の夏、琉季と一緒に花火を観た時に、彼が撮影した花火の画像だった。
あの時に、琉季は圭太にこの写真を送ってくれたのだが、また、この写真だけを送信してきた。
琉季のその意図とは……。
「琉季さんっ……」
もう一度彼の名を呼ぶと、途端に涙が溢れてきた。
今まで見向きもしないようにしてきた自分の気持ちが、堰を切ったように溢れ出てきてしまう。
『ごめん、琉季さん……僕も会いたい』
琉季は、今年も一緒に花火を観ようと言っているのかもしれないと思った。思い違いかもしれないけれど、勝手にそう決めることにする。
ともだちにシェアしよう!