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第45話

月日が流れ、翌年の6月も半ばになった。 圭太は無資格から介護の世界に飛び込み、今では資格も取得しスタッフの皆からも頼りにされている。 女性が多い職場だから、男性である圭太は何かと体力的にも頼まれることが多いのだ。  地元に帰ってきてから、余計なことを考える間もなく、必死に日々を過ごしてきた。 母親を支えることと仕事を両立するのは、案外大変なもの。 それでも、心機一転して頑張れている自分が好きだ。  琉季のことも、思い出さなくなっていた。それなのに……。  ある日の午後、仕事の休憩時間に携帯電話が鳴り、圭太が画面に目を落とすとそこには”琉季さん”と表示されていた。 『あっ……』  何となく、ブロックできなかった琉季の連絡先。  携帯電話の通知をタップしてみると、文章は何もなくただ1つだけ写真が添付されていた。 「琉季さん……」  昨年の夏、琉季と一緒に花火を観た時に、彼が撮影した花火の画像だった。 あの時に、琉季は圭太にこの写真を送ってくれたのだが、また、この写真だけを送信してきた。  琉季のその意図とは……。 「琉季さんっ……」  もう一度彼の名を呼ぶと、途端に涙が溢れてきた。  今まで見向きもしないようにしてきた自分の気持ちが、堰を切ったように溢れ出てきてしまう。 『ごめん、琉季さん……僕も会いたい』  琉季は、今年も一緒に花火を観ようと言っているのかもしれないと思った。思い違いかもしれないけれど、勝手にそう決めることにする。

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